fools

@zerogami22174269

第1話 伝説と夢

「かつて…神が見えぬ存在で無かった時代、人は皆、助け合い、協力し合って生きていた。神は人に光を与え、人は神に祈りを捧げた、誰もがそんな幸せがずっと続くと思っていた…ある一体の”天使”が”闇”に落ちるまでは…優秀だった天使は神の禁じた”禁断の果実”を食べ、その闇を増幅させ、”最悪”となった。その力で、世界を穢し、植物や動物、天使も人もその他の生命も全てを殺した。最高神様は激闘の末、その最悪を鎮め、魂と肉体と”魔力”をそれぞれ分け、三つの神器の中に封印した。そして最高神様は腐敗した世界を浄化し、再び緑溢れる豊な世界に戻すため、その身を世界樹へと変え、数百億年の時を経て世界を完全な姿へと戻した。しかし、最高神様は世界の浄化で力を使い果たし、完全な復活が困難となってしまったため、最後の力で世界の統率者として”天人”様を創り、人々を先導し、再び世界は平和に包まれた。が、再び世界の平和を破壊する者が現れた、それは…”争い”だった。最初は個人同士の小さな争いがやがて多くの者を巻き込み大きな争いへと変わり、いつしかそれは”戦争”と呼ばれ、数多の戦士達が命を散らし、多くの民が悲劇を味わうこととなった。このままでは全てが終わってしまう、そんな中でたった一人の大きな光が現れ、その光で世界を覆い尽くし、その光を中心に再び世界は平和になった。大きな光を持つ者は英雄と呼ばれ、やがて人族の王となり、時代の名となり、残った四つの異種族達をまとめ上げ、第五聖平和協定を結び、各国に争いを目的としない”護る”ための戦士、”魔法騎士団”を築き今の世界を作ったのさ。」


と、老婆は強張った表情を崩し、手に持った本を閉じて、眼帯の少年に笑顔を向ける。


「知ってるよ、おばあちゃんいつもその本の話ばーかりだもん。」

「あら、そうだったかしら。」


眼帯の少年の言葉に、わざとらしく答える老婆。


「おばあちゃん、僕いつかそのご本の英雄よりもずーーーと、ずーーーと、強くなって、いつか…”世界一の大英雄”になるんだ。」

「そうかい、そりゃー楽しみだね。」


眼帯の少年の言葉に、老婆は満面の笑みで答える。


しかし直後…


「でもいいかい、”ニヒツ”ちゃん。いつかニヒツちゃんが大英雄と呼ばれるほど強くなっても…」


あれから約5年の月日が流れ…あの日の眼帯の少年ニヒツが丁度10歳になった頃…


「おばあちゃん…僕…」


ニヒツは”アリス・トリビライザ”と書かれた墓の前で、手を合わせて…


「”あの日”の約束の通り、必ず”世界一の大英雄になるよ”。」


ニヒツはそこに宣言した。


それから数時間後、ニヒツはある森の中で…


「おぉー!ニヒツ、今日もこんな朝早くから…本当に助かるよ。」

「いえ、このくらい…いい修練になります。」


木こりの手伝いをしながら、恐らく人の手では切れないであろう大木を数度の手刀で切り落とし、当然その高さ約200m、太さ30kmの大木を軽々と持ち上げ、再び手刀で一般的な木のサイズまで切り刻む。


「1…2…」


早朝の木こりが終わり午前7時頃、寝静まった人々の大半が起きて来る時間。


「朝から元気だねえ―本当に…」

「いえいえ、この程度…ただの日課ですから。」


腕立て伏せ、上体起こし、スクワット…その他の各種計60を超えるトレーニングメニューをそれぞれ999セット9999回を午前7時から午前9時までの二時間で終わらせる。


「はぁ!はぁ!はぁ!はぁっ!」


それから昼までに、村の周辺半径200kmを9999周を999セットを完了させ。


「ニヒツちゃん、こっちも頼めるかい?」

「はい!今直ぐに…」

「ニヒツ!わりぃーんだどさ…」

「はい、お任せください。」

「悪いねぇー、ニヒツちゃん。」

「いえいえ、また重い荷物を運ぶときはいつでも頼ってください。」

「ニヒツ!」

「ニヒツちゃん!」

「はいはーい!今直ぐ行きまぁーす!」


一日百善、三日で三百善と言う彼のモットーを大切に、一日も欠かさずこなしていく。


これが、あの幼き日の少年の現在の姿である。


「ニヒツ、当然日課は終わっとるんやろうなぁー」

「はい、もちろんです。”師匠”」

「そいなら、ええねん。」


ニヒツに話しかけて来たこの老父の名は、”シーラ”。


この西洋の世で、唯一東洋の和風建築の家に住み、剣術道場なるものを営む古風な老兵であり…


老婆の死後5年間、ニヒツの夢を誰よりも応援し、彼を強き戦士へと育て上げた、この国一とも呼べる剣技を極めた無名の大剣豪である。


「ほな、一本やるか?」

「お願いします!!!」


彼に挑むと覚悟した瞬間、ニヒツの目はいつになく輝いていた。


「ほれぇ!」

「おっと!」


直後にシーラは、ニヒツに木刀を投げ、自身は素手、しかも片腕を着物の中へと隠し、片手で充分と言わんばかりに「こいこい」と指を曲げる。


「いつも通り、先手は譲ったる。そしてわしは片手や…今回こそ、この場から一歩でも動かしてみぃー。」

「もしそれが叶ったら、新しい技…教えてくださいね。」

「ええで、”できるもんなら”やってみぃー」

「それでは…”遠慮なく”…」


直後、ニヒツはシーラの視界から消え、その場からまるで瞬間移動の如く高速で間合いを詰める。


「卯月一刀流…」


そしてニヒツ、飛び上がって手に持った木刀を斜めに振り下ろし。


「乱れ餅ぃぃぃ!!!」


その剣技をシーラに喰らわせる。


「アホォー!何度も言うとるやろう…”飛んだら”身動き取れんなるて…」


しかしシーラは、ニヒツの剣を正真正銘”小指”一本で容易く止める。


「ほれぇ!こっからどうすんねん。」

「こう…します!」


ニヒツは、シーラが指で支えているその剣を軸に蹴りを加える。


「戯けがぁ!」

「うぉ!」


しかし、シーラは背中を曲げ蹴りを避けたと同時に、小指で持った木刀を軽く押すと、ニヒツは真上に押された木刀と共に宙を舞う。


「くっ!卯月一刀流…」


いきなり上空に投げ出されたことで、背中から地面に落下しそうになるニヒツ。


しかしそこへ、何らかの技を使って衝撃を和らげようと画策する。


「兎餅!」


ニヒツは上空で突如回転、剣を外側にして体への直撃を避けると同時に超高速でスピンし、その剣が地面に着地すると…どう言うわけか地面が”餅”の様に”軟化”し、何度も弾んで周囲を不規則的に高速移動する。


そしてそのまま…


「喰らえぇ!乱れ兎餅ぃ!」


そのままその勢いをシーラへの攻撃へ転用し、周囲を取り囲みシーラに攻撃を仕掛けようとする。


「やれやれ、まだまだやなぁー」

「はぁぁぁ!!!」


気合を入れた、不規則な軌道を読むことが出来ず木刀に何度も打ちのめされるはずの大技。


「ほいほいほいほいほいほいほいほい…」


しかし、シーラには通じず、その場から動かずして全ての攻撃を片手で受け流す。


「やっぱり…通じないか…」

「どうした、もう降参か?」

「まだです!」


最後の一手、今まで全く歯が立たないニヒツが最後に繰り出したのは、まさかまさかの木刀を捨てた手刀での剣技…


「ほう…」

「卯月”無刀”流…」


その技、いまだ未完成、しかし完成すれば最大最強の技になり得る。


その技の名を…


「”鏡ぃぃぃ!!!…開きぃぃぃ!!!!”」


それは、両手に持った剣で回転し、回転の勢いで突風を起こし相手の全身を強力な風の渦の中に巻き込み叩きのめす…ニヒツがまだ教わっていない、卯月流の最終奥義。


「はぁー…流石と褒めるべきか、まだまだと言うべきか…考えてもわからへんから、取り合えず…”手本”見せたるわ。」


渦の様に巻いた刃の突風を纏い迫ってくるニヒツに対し、シーラその片手一本でなんと…


「卯月”無刀”流…」

(まさか、片手で!?)


ニヒツは知っていた、不可能だと。


この技は、手刀にしろ刀にしろ、”二刀”無ければ不可能な技…それを片手でなんて何て…


(不可能なはずです!?)


ニヒツは今から何が起こるのか、師匠が何を見せてくれるのか、戦闘より先にそれが気になって気になって、目を見開いて驚き、直視している。


「いいかぁ!ニヒツぅ!!これがほんまの…”鏡開き”じゃ…」


その直後、ニヒツが全身を使い、再現したあの技が…


何度も何度も何週も回って再現したあの技が…


”一回転”もしていない、少し角度を曲げただけの片手から発生した衝撃波によってかき消され、再びニヒツは吹き飛ばされる。


「ぐぅ!」


今度は上空ではなく、地面に背を向け、何度もぶつかって止まらず、最終期には背中を地面にこすり合わせることで何とか崖際ギリギリで地面との摩擦により停止。


しかし当然その背中は…


「ノーダメージ、成長したやないかぁ。」


常人なら血だらけになっているところを、ニヒツはここまで吹き飛ばされたものの無傷、当然骨も折れていない。


「あははっ…喜んでいいんですかね?」

「あぁー当然やろ、まぁーまたわしの足は動かせなんだがな。」

「やっぱり…師匠は強いや…」


ニヒツは残念がりつつも、また強くなろうとその身に誓った。いつか…あの技を正式に教わるために…


「でもええで…」

「はい?」

「技…教えてやるって言うとんねん。」

「え…でも…」

「成長は見れた、それに…」

「それに…」

(そろそろこいつも、”旅立ち”の時期じゃろうしなぁー)


そう、この世界では魔法騎士団と呼ばれる者が存在し、それになるための学校に通うことができる。


そしてその学校に入れる最低年齢が…


「お前ももう、10歳やろ。」

「そう…ですね…」


10歳である。

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