中編

 次の日の放課後、また百ちゃん家に行った。


「めぐに見てほしいのがあるんだ!」

「な、なに」

「ほら、これ!」


 庭に案内されると、私くらいの小さな木が植えてあった。


「この木が、どうかしたの?」

「木?確かにそう見えるけど、これは神様だぞ!」

「かみさま?」

「そう!この神様は肥料じゃなくて「愛」をあげないと大きく育たないんだ!」

「はぁ」


 どれだけ目を凝らしても、普通の若い木にしか見えない。

 これが百ちゃんの趣味なのかな。


「……あ、ここ、虫が刺さってる」

「うわ、ほんとだ!誰のいたずらだ!?」

「多分、モズだと思う」

「モズ?」

「うん……冬を越すために、こうやって貯めておく小さい鳥がいるんだ」

「へー……でもこんなやり方、残酷だぞ……」

「百ちゃんは優しいね」

「そんなに詳しいってことは、鳥好きなのかぁ?」

「うん……可愛いし、自由だし……」


 自由に空を飛べて、人を魅了させるほど綺麗。

 どれも私が欲しくてたまらないもの。


「じゃあ知ってることもっと教えてくれ!めぐともっとお話したいぞ!」

「う、うん、聞きたいなら」


 それから、時間も忘れて神様とやらの前で話をした。

 何を話しても、楽しそうに百ちゃんは聞いてくれた。


「……って感じ」

「おぉ!すごい!知らなかったぞそんなの!

 めぐは物知りだな!」

「えへへ」

「じゃあ次は百の番だぞ!」

「え、なになに――んむっ!?」


 急に顔を掴んで、口を強くくっつけてきた。


「……ぷはっ。へへっ、めぐのお口、美味しいな」

「ふえっあっ、な、なにぉ……!?」


 百ちゃんの顔が赤い。私も急に暑くなる。


「言っただろ?神様は愛を欲しがってるって。

 こうやって見せないと枯れちゃうんだ」

「そ、そうなら先に言ってよぉ」

「ごめんなぁ。でも、百は、その、

 めぐと、するって思うと、止まんなくて」

「え、えぇ、や……えぇ?」


 最初はすごく驚いたけど、そんなに悪い気はしなかった。


「ね、ねぇ、もっと、しよ」

「じゃあ、次はこれとかどうだ……」


 多分、女の子同士でこんなことするのは珍しいんだろうけど、どうでもいい。

 百ちゃんのことだけを考えている間は、ずっと幸せでいっぱいになった。

 あとで殴られようが、それでも百ちゃんと会って、一緒にいたい。


「あ……もう時間だぁ、はぁ……早すぎるぞ……」

「ま、まぁ、しょうがないよ……また、明日」


 こんなふうに、放課後から百ちゃん家に行って、

 帰っては殴られる毎日を、雪が降るまで続けた。

 会うたびに、百ちゃんから色々な愛し方をされて、

 それに負けないくらい私も百ちゃんの事を好きになっていった。




 初雪の日に、百の家に行くと、

 いつものように木の前に座っていた。


 でも、様子は少し違くて、悲しそうな顔をしてた。


「も、百ぉ!私だよ!」

「……あ、めぐぅ」

「あ、あれ、どうした、の?」

「……う……うあ、ああぁあぁっ……」


 急に顔がぐしゃぐしゃになって、大きく泣き始めちゃった。

 な、何があったんだろう。


「ぐずっ……うぇ、めぐぅ……あぁ……」

「え、えぇ!?な、泣かないで!」


 肩を掴んだり、抱きしめてみても、治まらない。


「い、いったい何があったの?」

「だ、だってぇ、だってぇ!

 きょ、今日で一旦、お別れなんだよぉ!……」


 ……え?


「お、お別れ?て、転校するの!?」

「う、ううん、そうじゃない……」

「じゃ、じゃあどういう意味……?」


 今度は百が、震える手で肩を掴んできた。


「一生の……お願いがあるんだ、めぐ」

「な、何?百の頼み事なら、何でもやるよ」

「…………うぐっ……うぅ」


 百が何回か呼吸をしてから、私を見る。


「い、今、ここで……めぐには、死んでほしいんだ」


 …………は?

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