第10話「二刀流で限界突破」

 朝、今日の作業を始める前に、昨日得たスキルを整理してみる。


信次郎メモ


<大地との対話>


(農地解析)

 土の状態がわかる。


(生物分解感知)

 微生物による発酵状況がわかる。

 発酵すれば肥料になるかどうかがわかる。


(微発酵促進)

 発酵を少し促進する。


(緑肥知識)

 植えるだけで土に恩恵のある植物がわかる。


(農具伝導)

 農具経由で大地との対話が使えるようになる。


(地味だ、えーっと、異世界でチートスキルで農家無双とか思ってた時期が俺にもありました!)


 納屋の裏に積んである馬糞の山が、朝の空気の中で静かに蒸気を立てていた。 もっと発酵を進めるには酸素が必要だ。匂いも、昨日よりだいぶマシになってきた気がする。鼻を突くようなツンとした臭いが、少しだけ和らいでいる。


昨日の失敗は……池の泥を混ぜたせいかもしれない。酸素が減ったのは、あれのせいだ。

乾かしたつもりだったけど、泥って目が細かいから、空気が通りにくいんだな。

栄養はあると思ったんだけど……通気性って、やっぱ大事なんだ。


「麦わら……あった、これを混ぜれば通気性もよくなるはず」


 納屋の隅から麦わらを取り出し、馬糞の山に混ぜていく。

 さらに、麦のもみ殻もかき集めて投入。


(空気を含ませるには、こういう軽いやつがいいんだろうな。もみ殻って栄養はそんなにないけど……呼吸しやすい環境にはなるはず)


 ふと思い出す。


(そういえば、親父が言ってたな。炭もいいって。空気を含んで、長持ちするって。なんだっけ……あの軽いやつ……)


 ──バイオ炭。


(そうだ、麦もみを炭にして土に混ぜると、それがゆっくり分解して、土壌改良にもなるって言ってた)


 今すぐにはできないが、将来的にはバイオ炭づくりにも挑戦したい。


(異世界に転生したので山奥で炭焼きで生計を立ててます、うむ、第5章がはじまったかもしれない)


 畑の準備を続ける。


「よし、豆をまくには、まず畝をつくらないと……あの、土を盛って筋みたいにするやつだ」


 鍬を手に取り、土を起こしていく。掘った土を横に積み上げて、山をつなげる感じで畝を作る。作物を植えるための“土の筋”ってやつだ。だが……。


(……これ、地味にきついな。畝が全然追いつかない)


 豆をまくには、きちんとした畝が必要。でも手が足りない。


「とりあえず、畝が追い付かないところは、クローバーをまいておこう。緑肥にはなるし、土も守れる」


 クローバーの枯れた花を手に、未整備の畑にちぎってまいていく。

(そういえば、クローバーって花のあと、どうやって種になるんだ?  枯れた花の中に小さな種ができるらしいけど……正直、俺は見たことない。そもそも、これって本当に発芽するのか?)

(感覚的には、サツマイモみたいに、つるがはって増えてる気もするんだけど……)

(種まきというか、枯れた花まきになっているが、出たらラッキーくらいに思っておこう)

(念のため根のついた株も少し抜いて、土ごと移しておこう)


 よし、クローバーはこれで一通りまいた。さて……また畝づくりの続きだ。


(……これ、まだまだ続くんだよな。もっと、なんかこう、手早くできる方法はないのか……)


〈大地との対話:農具二刀流〉


(……え、両手に鍬(くわ)!? 左右同時に、いや、交互に……って、なんかめっちゃリズムよく動ける!)

(どっちの手も、なんか“利き手感”あるんだけど!?)

(な、なんだこれ……!両手で畝が作れる! けど……疲労も、きっちり二倍な気がする……!!)


〈大地との対話:農具両手持ち〉


(うおっ、また出た……“農具両手持ち”?)

(両手で一つの鍬を扱うと、力が……1.25倍? いや、地味だけどこれは効く……!)


 二刀流でざっくり畝を刻み、固いところだけ両手持ちでガッと削る。

 ……っていうのを繰り返してたら、いつのまにか畝がけっこう形になってた。


(第6章はこれか、現実世界と異世界の二刀流で兼業農家始めました)


(……でも、疲労がやばい。腕が、もう乳酸マックス。限界突破して、もはや腕じゃない何かになってる)


「朝ごはんができたよー!」

 ユウナの声が風に乗って届く。

 大きく手を振る彼女が、少し眩しかった。

 俺も、つい手を振り返していた。


(え、腕動くじゃん)


「ありがとー!今行くー!」

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