死にゲーの強敵に転生したので俺つえーできると思った
柚辛子
前編 対峙
目を醒ますと、俺は石段に腰掛けていた。
――ここは何処だ?
目の前には学校の校庭のような広場があり、背後には木製のどデカい門が鎮座している。
空には鼠色の雲が垂れ下がり、まばらに届く鉄がぶつかり合う音や人の怒号、さらに遠目には茅葺きや瓦といった古風な街並みから点々と黒煙が立ち昇る様が、決して穏やかじゃない様子を予感させた。
それに、と先ほどからカチャカチャ音を立てている自分の身体を見ると、がっしりとした体躯に鈍く光る甲冑を纏っていた。右手は身長程はありそうな巨大な薙刀を握っており、反った切先が天に向かっている。
「なんだ、これは」
思わず声が漏れたが、そこでまた困惑が増えた。
――俺の声、渋っ……!?
中世か近世の日本を思わせる風景に、デカい門の前にどっしり構えるガタイのいい薙刀の男。この状況、既視感がある……
「小関殿!
坊主頭の青年が慌てた様子で走ってきた。周りには他に人がおらず、呼んでいたのは俺らしい。
「『
蒼刀という言葉で、脳内に火花が走った。
ここは、俺がやったことのあるゲーム『SOUTO』の世界に酷似している!
SOUTOは古き和風な世界観と歯応えのある高難度なアクション性から、世界的に人気を誇った『死にゲー』のひとつ。主人公の侍を操作し、自身が仕える若領主を助けるため敵国の将軍を倒しに単身乗り込むが、道中様々な強敵が立ちはだかり多くのプレイヤーが心折られた。
俺もその一人で、序盤の難敵……たしか関所の門番、小関門左衛門にボコボコにされて以来積みゲーと化してたなぁ。
――え。門左衛門、俺じゃん。
「ヌッ!?」
「小関殿!」
またも俺の声帯から野太い音。
なぜ俺がボスエネミーになってるんだ? たしか俺は独り部屋でゲームをしていたら、急に胸を締め付ける痛みが――
そこで悟った。俺は死んだのか……
惨めだった過去の幻影が蘇ってきた。お世辞にも整ってはいない顔面に、腹と首周りに付いた肉、甘酸っぱい青春とはほど遠く就活も失敗。数年経ってもプータローな俺に両親も愛想尽かし勘当。ワンルームで独り気を失った俺はきっと誰にも見つけられず、ただ汚い骸になっていったのだろう。なんて無様な人生だ……だが。
「フッハッハ……」
転生したなら、話は別だ!
しかもあれだけ俺を苦しめた、デブはデブでも強いデブ。刃向かう奴を完膚なきまで叩きのめし、『俺つえー』の快感に浸るチャンスを神が与えてくれたのだ!
「よかろう、来るがいい……!」
「小関殿、奴です!」
青年足軽が前方を指差すと、悠然とした姿が現れた。
その侍は、高い位置でまとめた長髪を風になびかせ、細身な身体に整った顔立ち、薄ら青く煌めく刀身の日本刀を携えていた。
自分で操作してた時はあんまり気にしなかったが、いざ敵として対するとムカついてくるな。こんな美形が実際にいるものかよ。
「…………」
イケメン侍は無言で蒼光の刀を構えた。涼しい顔しやがって、ムカつくぜ……
俺は文字通り重い腰を上げ、巨大な薙刀を振り上げ対峙した。すると脳内にセリフがつらつらと浮かび、言わなければならない衝動に駆られた。なるほど、ボスには啖呵が付きものか、ならやってやろうじゃないか……!
俺は大きく息を吸い、盛大に言い放った。
「来たか、蒼刀の侍よ!
キマッた……!
俺の人生でこんな豪快な啖呵を切る機会が来るとは思わなんだ。神に感謝だな。
――どぉぉぉーーーん…………
どこからともなく重厚な太鼓の音が響く。そうそう、この合図でボス戦が始まるんだった。
今頃プレイヤーの画面にデカデカと『関所の門番 小関門左衛門』なんて筆文字フォントが浮かび上がっているだろう。ついでに如何にも門番やるために生まれたような名前だとも思われているだろう。
「…………」
真っ直ぐ向かって来るイケメン侍。
いいだろう、だが俺は得物のリーチ分だけ有利!
薙刀を腰の位置で構え、大振りな薙ぎ払いを繰り出す。侍は胸の高さで受ける姿勢をとったが甘い、下半身が隙だらけだぜ!
「ヌゥンッ!!」
狙い通り、薙刀はがら空きの両太腿を抉り取った。
膝を折って崩れた侍へと、間髪入れず振り下ろしを見舞う。
――ズサッ!!
まともに喰らったな。これはきっと大ダメージだ。
さぁもっと楽しませてくれ、優越感に浸らせてくれ!
「…………――」
あれ? 侍は起き上がらない。まさか……
「……――――」
蒼刀は死んでしまったようだ。
さすがは死にゲー、呆気ない……いや俺が強いのか?
正直物足りないが、ここまで圧倒的だと笑えてくるな。イケメン侍よ、デカいおっさんに地べたを舐めさせられる気分はどうだ。こういう時に「ざまぁ」と言うものか?
そこで待て、と制するように脳内にまたセリフが浮かんだ。そういえば俺も何度かそれを聞かされて屈辱を受けたっけ。ざまぁだと時代設定にも合わないしな。
まあ仕方ない、と俺は屍となったイケメンに吐き捨てた。
「フンッ、他愛無し……」
キマッた……!
――Loading――
「小関殿! 小関門左衛門殿!」
「ヌッ!?」
目を醒ますと、再び石段に腰掛けていた。
眼前の広場に横たわる侍の姿は無く、先ほどの闘いがまるで無かったかのようだ。
夢だったのか? いや、これはきっと――
「蒼刀がまもなく此処に!」
青年足軽が指差す方向から、先ほど地を舐めたイケメンが現れた。相変わらず涼しげな顔してやがる。ムカつくぜ……
なるほど、
俺は重い腰を上げて、空気を震わす威勢を張った。
「来たか、蒼刀の侍よ!
やはり啖呵を切るというのは男心をくすぐるな。固有名詞はちょっと、いやだいぶ言いづらいが。
――どぉぉぉーーーん…………
開戦の合図と共に初戦はホイホイと向かってきた侍が、今度はなかなか距離を詰めてこない。なるほど、先ほど脚を奪われた薙ぎ払いを警戒しているらしい。
ならば――と俺は薙刀を侍に対して垂直に、突きの構えをとった。侍も受けの姿勢をとったが甘い、そんな細身の刀剣で防ぎきれるものか!
「ぃやああァァ!!」
肩、脇腹、太腿にと次々に切先が滑り込む。脱力し膝をついた侍に、豪快な振り下ろしを喰らわせた。
――ズサッ!!
「……――――」
侍はまたしても死んでしまった。
呆気ない……呆気ないぞイケメン。
それにしても強すぎるな、俺こと小関門左衛門。全く負ける気がしない……おっと、敗者への追い討ちを忘れるところだった。
「フンッ、他愛無し……」
――Loading――
「小関門左衛門殿! 蒼刀がまもなく此処に!」
青年足軽の慌て声で再び目を醒ました。彼が指差す方向からは悠然とした足取りのイケメン侍。2回連続ですぐ死んだくせに涼しい顔しやがって、ムカつくぜ……
だが何度挑もうと同じこと。今回も赤子の手をひねるよう地面に突っ伏させてやる!
「来たか、蒼刀の侍よ!
――どぉぉぉーーーん…………
開戦の合図と共に、侍はこちらに向かってきた。
なんだ、俺の間合いを忘れたか? いつかのように薙ぎ払いで脚を奪ってやる。
薙刀を腰に構え大振りを見舞おうとした時、侍が懐から何かを取り出し、俺の足下に撒いた。次の瞬間、
――ババババババッ!!!
「ぬうッ!?」
強烈な破裂音と閃光に思わず顔を覆い、構えが解かれる。敵の姿も、足音も捉えられない。これはまさか、
爆ぜる硝煙に紛れて俺の腕や脚、胴に青い軌跡が走るのが見えた。間違いない、蒼刀による攻撃を受けている。
痛みは無い……だが、着実に脱力していく感覚。そうか、これを繰り返され完全な隙を晒した時、致命の一撃を与えられれば俺は敗け――即ち死。
姑息な真似を――許せん! 無防備を晒すこと10秒ほど、破裂音と閃光が止んだ。どうやら爆竹が尽きたらしい。
ならばお返しだ、と侍が正面に現れたタイミングで全力の張り手を繰り出した。
「ハアッ!!」
確かな手応え、仰け反る侍。体勢を崩すまいとすぐ刀で受ける姿勢をとったがもう遅い、俺は既に薙ぎ払いの構えをとっている!
怒りを込めた横薙ぎを腹部にモロに食らい、侍はボロ雑巾のように吹き飛んだ。起き上がらない……今回も俺の勝ちだな。
しかし、焦らせやがって。あんなハメ技を使ってくるとは。イケメンだからって許されると思うなよ。
「フンッ、他愛無し……」
――Loading――
「小関門左衛門殿! 蒼刀がまもなく此処に!」
青年足軽の騒ぎ声で目を醒ますのも段々慣れてきた。いずれ聞き慣れたアラームのように効かなくなったらどうしよう。
前方からは長髪をなびかせるイケメン侍。涼しい顔してさっきはセコい真似してきたからな、ますますムカつくぜ……
同じ手は食わんぞ。
「来たか、蒼刀の侍よ! 筑紫がさかさっ――」
クソッ、噛んだぁぁっ!!?
だいたい誰が付けたんだ
しかしこのままじゃ締まらない、気を取り直してもう一度……
「……ヴッヴン! 来たか、蒼刀の侍よ! ちく――」
――どぉぉぉーーーん…………
チクショウ、尺が足りなかった!!
それもこれも爆竹ハメなんぞしてくるコイツのせいだ!
スタスタと距離を詰めながら懐に手を伸ばす侍――ああもう、それやめろ!
「ぃやああァァ!!」
ザクザクと爆竹のリーチに入られる前に薙刀の突きが決まる。続けざまの薙ぎ払いで侍は再びボロ雑巾へ。
はぁ……はぁ……
いかん、頭に血が昇ってしまった。
死にゲーと無理ゲーは似て非なるもの……勝ち目が望めないほどあまりに理不尽だと、却って挑戦意欲が失せる。俺がこのイケメン侍を屠って俺つえーし続けるためには、侍に逃げられない丁度いい塩梅で勝ち続けなければ。
――って、なんで俺、小関門左衛門であることにプロ意識持ってるんだ。
――Loading――
「小関門左衛門殿! 蒼刀がまもなく此処に!」
目覚まし足軽の呼びかけで瞼を開ける。
――待て。前回の俺、最後の捨て台詞忘れたか?
クソッ、やらかした! プロ意識を説いた途端これか。
前方からはもはや見飽きたイケメン侍が飄々とやって来る。客は待ってくれない。テーマパークで着ぐるみを被って何度も踊ってる人たちはこんな気分なのかと同情してきた。
落ち着け、落ち着くんだ。
初心に帰り、まずはカッコよく啖呵を切る。深呼吸して、「ちくしがさがせき」だ……よし、いくぞ。
「……来たか、蒼刀の侍よ! 筑紫が」
――どぉぉぉーーーん…………
このヤロウ、スキップしやがった!!
人の意気込みを踏みにじりやがって。でも俺がプレイヤーでも飛ばすだろうから文句言えねぇ!
「ハアアァッ!!」
このムカつくイケメンが! 何度でも打ちのめしてやる――
――Loading――
――Loading――
――Loading――
…………
……
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