第5話 ココロもお腹も満たされて
村の入り口には、丸太で組まれた素朴なゲートがぽつんと立っていた。
その上には、細いつる草が巻きついていて、まるで自然と一緒に生きているみたいだった。
「ここが、村……?」
「そう。ファノア村よ〜」
ユイノはゲートをくぐりながら、少しだけ緊張した面持ちで周囲を見渡した。
牧場へ来る道中にちらっと横目で見た程度だったので、きちんと見るのは初めてだ。
土の道、木造の家々、小さな井戸と、花の咲いた石畳の広場。
どれも、都会の喧騒に染まっていた彼女にとっては、どこか絵本の中の風景のように思えた。
「人、いるのかな……」
そんな不安をよそに、奥の方からカゴを抱えたおばあさんがこちらに気づき、にこやかに会釈してくる。
「……なんか、思ってたより、あったかいかも」
隣でルゥが、くすっと笑った。
「ふふ、こう見えてけっこう歴史のある村なのよ〜。住んでる人も、まぁまぁいい人ばっかりよ?」
「そりゃ〜、ルゥみたいに嫌味なこと言う人、そうそういないよねっ?」
「あらぁ?いいのかしらぁ?そんな口きいて〜?」
ルゥが不敵な笑みを浮かべる。
異国……いや、この異世界でルゥに見放されたらと思うと、背筋が凍る思いだった。
「あっ……えっと、…うぅ……すみませんでしたぁ……」
「分かればよろしい〜♪」
ふたりは楽しそうに笑い合いながら、
「いらっしゃ──って、あれ!?ルゥちゃんじゃねぇか!」
「はぁ〜い!ダル、元気にしてたぁ〜?」
ダルと呼ばれた大柄の男性は、腹満屋の店主。ルゥとは古くからの知り合いらしい。
「ん?そっちの嬢ちゃんは……ルゥちゃんの連れか?」
「あ、はい!ユイノです。牧場に住むことになったので、これからよろしくお願いします!」
ダッドの大声が響くと、周囲の客たちがわらわらと集まってきた。
「あらまぁ、ルゥちゃんが連れてきた子なの?可愛いわねぇ〜。ほら、これあげるから持っておいき!」
「こんなのじゃ腹の足しにならないだろ?こっちも持ってけ!」
「なんだなんだぁ?若いの。ワシのこれも持ってくかい?」
次々に村の人々が、ユイノの細い腕に食材をどんどん積んでいく。
もはや、腹満屋で買い物をする必要がないほどに──。
「おいおい、せっかくのお客さんがよぉ……」
肩を落とすダッドだったが、顔はすっかり笑顔だ。
「みんなありがとねぇ〜!しばらくこの子といるから、また何かあったら気軽に呼んでちょうだい?」
「おおっ、ルゥちゃんが戻ってくるのか!そりゃあ安心だ!」
「あら〜、嬉しいわ〜!また遊びに行くからね〜!」
「お嬢ちゃんも、頑張んなさいよー!」
「えっと、みなさん、本当にありがとうございましたっ!!」
村人たちに見送られ、ふたりは牧場への帰路についた。
「なんか……みんな、あったかかったね」
ユイノがぽつりと呟くと、ルゥは怪しげに笑った。
「ふっふっふっ……よし、ミッション完了〜!アンタ、よくやったじゃない〜えらいえらい!」
「え? 何の話?」
「だってぇ、あれだけ貢物もらえたんだから大成功よ?しばらくは食べ物に困らないわ〜。ほら、持って帰る分、減らさないようにね?」
「……まさか、計算だったの?」
「当たり前でしょ〜?アンタ今お金ないんだから、そうなるとあたしが出すことになるじゃない。そんなの絶対イヤ〜」
「こ、このキツネめ〜っ!!」
「ほ〜ら、怒ってる暇があったら足動かして〜?早く帰ってごはん食べましょ♪」
「うぅ〜……まったく、どっちが保護者かわかんないよ!」
文句を言いながらも、ユイノは頬を緩める。
荷物は重い。けれど、足取りはどこか軽やかだった。
牧場に帰るころにはもう夕暮れ。
ルゥは部屋に入った途端、ぺたんと地面に座り込んだ。
「は〜〜〜疲れたぁ〜〜〜!もう動けない〜〜〜お腹すいた〜〜〜〜!!」
「……ルゥは何もしてないじゃん!荷物持ってたのは結局私だし〜っ!」
「ええ〜?だってぇ、あんた若いんだからそれくらい当たり前でしょぉ?」
「なにその理屈!?っていうか…ルゥいくつなのよ…?」
「まぁ、見た目は若く保てるようにしてるけど~…ふふっ、ナイショ♡」
ユイノは呆れつつも、膨れたお腹がぐぅと鳴る。
「……とりあえず、お昼…っていうかもう夕飯か!!作るよ。私が倒れたら困るのは私だしね!」
「おお〜〜〜待ってました〜!できれば、お肉かお魚がいいわ〜バランスよく!あとおかわり自由で!」
「注文多いな!?カフェじゃないんだよここ!」
それでも仕方ないと、ユイノは荷物の中を探りながら、納屋の簡易キッチンへと向かう。
「えーっと、村で貰ったのは……お、こっちはお魚の干物??あとは……あ、このお肉、鶏肉っぽいかも?……もらった野菜は、この根っこみたいなのと、豆だ!」
「あ、セレアの干物じゃない~♡私これ好きよ~!ベクルは鳥みたいな獣ね〜。やわらかくて脂も少なめ!そっちの野菜はカスレ根って言って、そっちではニンジンかしら?その豆はクルカ豆。煮るとほくほくしておいしいわよ〜!」
「ほほう、じゃあ魚と肉、両方使ってバランスよく、そしてスープも作ってやるー!」
「あら、それなら期待して待ってるわ〜!」
「一応聞いておくけど、ルゥは何もしないんだよね!?」
「当然!」
「ですよねえ~…」
苦笑いを浮かべながら、ユイノは簡易キッチンに立った。
「ん〜……やっぱりちょっと狭いなあ。部屋自体も手狭だし…調理スペースも最小限って感じ。前にここ使ってたのって、男の人とか?」
「そうそう。結婚もしてないし料理もほとんどしなかったから、これでも十分だったのよね〜。……あ、大工のティナにでも頼めば広くしてくれるかもよ?」
「ほんと!? なんか……牧場経営ゲームっぽくてテンション上がる!」
「またそれ〜?あんたねぇ、これは現実なんだから。ゲームじゃないのよ?」
「でも私からしたら異世界だし、もうゲーム感覚じゃないとやってられないってば!」
ユイノは苦笑しながらも棚を開け、鍋やフライパンをひとつひとつ手に取って確認していく。
「うん、調理器具は意外とちゃんとしてる。これならしばらくはなんとかなるかも。でも……この包丁だけはダメだな、刃が欠けてるし……これは村で買い替えよっと」
鍋に水を張り、火をつける。パチッと薪のはぜる音が響いた。
「さて、と。まずはスープからかな。……クルカ豆は一晩水に漬けなくても柔らかいってルゥが言ってたし……カスレ根は、皮をむいて……あ、皮むき器がない!包丁でいけるかな〜……うわ、使いにくっ!」
それでも手際よく根菜を刻み、豆と一緒に鍋に放り込む。
「あとは岩塩と香草……香草は“リーヴェ草”だっけ?腹満屋でおばちゃんがそんなような事いってたきがする……クセもなさそうだし、うん!いい感じ!」
ふわりと香りが立ちのぼる。ユイノは鼻をすんと鳴らして、思わず笑顔になる。
「うん、悪くないかも!」
そんな調子で、肉は香草とともに包んで焼き、魚は表面を軽く炙って仕上げていく。
どこかぎこちないけれど、心のこもった昼ごはんが、少しずつ形になっていった。
完成したご飯を並べ、ユイノがふぅっと息をついた。
「よし、できた……って、あれ?ルゥ?」
「……ぐぅ」
「寝てるし!!」
揺すってもなかなか起きないルゥに、ユイノはもう一度ため息をつく。
「もう……でも、美味しくできたからいっか。後で起こしてあげよ。」
そう言って、ユイノは自分の皿に少しずつ料理を盛っていく。
ルゥの隣で食べる静かな夕食――
だけど、どこか、あったかい時間だった。
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