借金完済したら30歳…異世界でのんびり幸せ見つけます!

はちゃめちゃロマン

第1話 お疲れOLと金髪の謎女

「はぁ゛〜〜〜……つかれたぁあ〜〜……」


――念のため言っておくが、このおっさん並みのクソデカため息をついたのは、れっきとした若き女性である。



名前はユイノ。

年齢は三十路、人生の折り返し地点もそろそろ見えてきた大人女子。

肩まで伸びた少し長めのボブに、淡い栗色の髪。

そして、少しよれの目立つスーツ姿が、彼女の今を物語っていた。



かつては夢見る乙女。今は借金に夢を食い尽くされた社畜戦士。

10年前、両親がこの世を去った――と思ったら、背後から静かに迫ってきたのは、笑えない額の“両親からの愛の遺産”こと借金だった。


必死の思いで1年前に完済したものの、9年間の借金返済生活のせいで、ユイノの身体はゆっくり休むことを許さない哀れな状態になってしまっていた。


「……なんか今日はいつも以上にしんどいな……歳か……いや、考えたくない……とにかく早く帰ろ……」


今日も仕事を終えて、定番のコンビニ前の信号を渡り、いつもの帰路へ着く。


なんとなく見慣れた大通りの照明が遠ざかったと思ったら、いつのまにかひっそりとした路地に迷い込んでいた。


「……あれ? なんで、こっちに来たんだろ……」


そうつぶやいた瞬間、突風が吹きつけてきた。

ユイノは思わず目をつぶった。


「っ……! なに、今の風……」


髪をかき乱す風が通りすぎたあと――どこからともなく、不気味な声が降ってきた。


「ふふっ……あんた、死相が出てるわねぇ〜……」


声のしたほうを見ると、路地の隅に金髪のお姉さんが立っていた。

紫色の占い師風のローブをまとい、まるで魔法使いのコスプレでもしているかのような風貌。


――占い師?それとも、何かのパフォーマー?


ひとことで言えば怪しい。ふたことで言えば、めちゃくちゃ怪しい。


「し…死相って……いきなりなんなんですか、あなた!!」


食ってかかるユイノ。しかし、金髪の胡散臭い女はふわりと笑いながら、続けてこう言った。



「あんたの会社、潰れるわよ〜」



「は、はぁ!?…ほんと何言ってるんですか!?警察呼びますよ!?いや、動画を撮ってこれを……!」


怒り心頭でスマホを取り出したユイノだったが、その手がピタリと止まる。


――女が、浮いた。


「…って、え、う、浮いてる!?」


「ま〜た最近のニンゲンはすぐ撮るわね〜。撮っても何も映んないっての。

ああもう、こんなちんちくりん観察してたら時間が足りないわ〜。ミリミリ様への報告資料まとめなきゃ〜」


「ち、ちんちくりんって何よ!!」


「じゃ〜ね〜、またそのうち〜。私が来るまで死なないでよ〜?」


そう言い残すと、またしても突風が吹き抜け――女は、ふわっと空気ごといなくなった。


残されたのは、スマホ片手にぽかんと立ち尽くすユイノだけ。


「えっ…何だったの、今の……」


突風も、浮かぶ女も、すべて幻だったかのように――

目の前には、ただの裏路地。少しひんやりとした夜の空気が流れているだけだった。


あんな金髪の浮遊系お姉さん、現実にいてたまるか。

……でも、確かに聞いた。見た。ちんちくりん呼ばわりされた。


「……夢じゃない、よねぇ……?」


誰にともなくつぶやいて、ユイノはスマホをそっとポケットにしまった。




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