生まれ変わる魔法
第1話
暖かい日差しが降り注ぐ静かな午後。久々に研究も依頼もなく、だらだらに過ごすグレイヤ、机に向かって次の研究主題を考えていた。
「次は「愛」について研究してみようか」
前のこともあって、愛についてもっと研究したくなっていた。
「それとも夢について・・・」
他に良い主題がないか、と考え込んだ。そんな中、突然ドアを叩く音が聞こえた。
「誰だろう」
くる人がいないのに、と思いつつ、グレイヤはドアを開けた。そこにはボロボロの服を着た、十歳くらいの少年が立っていた。
「お姉さん、姉さんがあの噂の魔女なんだよね?」
「噂ってどういうことかわからないけど、魔女なの」
「とにかく魔女ってわけだよね? じゃあ僕の願いを聞いてくれ」
「願い?」
グレイヤは首を傾げた。
「願いって、ワタシに依頼したいってことなの?」
「うん、依頼。僕姉さんに依頼したんだ」
少女は両手をぐっと握って頼んできた。グレイヤは一瞬、呆然と少年を見下ろした。
「もしダメかな」
「ダメってわけではないけど、あんた金はある?」
「今はないけど、僕の願いを聞いてれたら、いくらでも払うよ。だから僕の願いを聞いてくれ!」
少年が両手を合わせ、真剣な顔でグレイヤに頼んだ。グレイヤはまた呆然とした顔で少年を見下ろした。
「わかった。聞いてあげる」
「本当に?」
「うん、とりあえず上がって」
グレイヤは少年を家の中へ案内した。少年は嬉しげな表情で家に入った。
グレイヤは少年を机の向かいに立たせ、自分は椅子に座った。そして無表情のまま机に置いた茶を一口すすってから口を開いた。
「依頼したいことは何」
「僕をお金持ちの息子にしてほしい!」
「・・・・・・」
馬鹿馬鹿しい依頼内容に、グレイヤは言葉を失った。冗談かと思うほどだった。しかし少年は真剣だった。
「もし不可能なの?」
「不可能、ではないけど、どうして金持ちの息子になりたいの?」
「そりゃ、欲しいものをいくらでも買えるから」
少年はなんでそんな当たり前なことを聞くのというような口調で答えた。
「実はうち、少し貧乏なんだ。親は昔亡くなって、婆さんと爺さんに育てられたけど、全然お金がないんだ。僕が「これ買って欲しい」と言っても「お金ないからダメ」と言われるし、しかも誕生日にプレゼントももらったことないんだよ!」
少年は怒ったような顔をした。
「でもお金持ちの息子は違うでしょ。欲しいものはいつでも買えるし、お金の心配なしに生きれるから、悩みことなんてなまま生きれるんだ」
「さて、どうかな」
グレイヤは静かにつぶやいた。少年は聞こえなかったのか首を傾げた。
「今何て言った?」
「何でもない。それであんたはたかがそんな理由でお金持ちの息子になりたいってわけだよね?」
「うん。魔女ならできるよね?」
「できるけど、報酬は?」
「もし僕がお金持ちの息子になったらいくらでも払うよ」
「そう? じゃあここにサインして」
グレイヤがいつの間にか机の上に置かれた羊皮紙を指さした。
「これ何」
「契約書」
「契約書って何?」
「一種の約束みたいなもの」
「あ、そうなんだ」
少年は理解したように隣のペンを取って羊皮紙に自分の名前を書いた。
「これでいい?」
少年はグレイヤに見せた。グレイヤは羊皮紙をチラッと見て頷いた。
「ちなみにこの魔法にかかると、二度と元には戻れない」
「大丈夫。こんな貧しい生活に戻りたくなるはずは絶対ないから」
「後悔するかもしれないよ」
「絶対後悔しない」
少年は自信満々に答えた。その答えに、グレイヤは机の上に置いた杖を手に持った。
「それじゃ始まる」
「うん。準備できた」
グレイヤは軽く杖を振った。すると少年は意識が徐々遠ざかり、やがて完全に途絶えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます