第10話 3分、待ってみるか?

 おそらく、クルーシアが「明日の朝には旅立ってね。」って言っていたのは、魔王の手先が来るからだったのだろう。 ラグおばさんが出歩いていたのも今俺がいるこの家を作る為。 家の周りを見渡すと、風呂敷に包まれたカップラーメンがあった。 カップラーメンはひとつも減っておらず、328個ちゃんとあった。 俺が寝ている間に盗む事も出来ただろうに。


 「くそ! くそ!!」


 俺は風呂敷に包まれたカップラーメンを背負い、東に向かって走り出した。


 こんな優しい事されて、村の現状を知って、黙って逃げるわけがない。 カップラーメンも盗まれてないし、何よりこのグルミの木の実って村のみんなで大事に育て、守って来た大切な木の実のはずなのに、そこによそ者を逃げさせるなんて。


 向かう先には魔王の手先がいる。 おそらくあり得ないほどのパワーとスピードを持った獣人だろう。 攻撃されたら殺される。 だが別に怖くない、一回死んでるし。


 段々と騒がしい物音が近づいてくる。 もう少しで着くはずだ。 …着いた!


 「今月2回目の搾取の時間だ!」

 「ほらほら、全てを差し出せ!!」


 そこには、身長が五メートルくらいありそうな、ゴリラの獣人二人が暴れ回ってた。 村はすでに半壊状態。 それを相手に、クルーシア筆頭に住民全員で立ち向かっていた。 クルーシアは自身のナイフと爪で。 住民は木で作った棍棒で。 この構図は見るからに像とアリ。 あまりにも一方的な戦いだった。


 「ぐわぁあ!!」


 俺の目の前に傷だらけのクルーシアが飛ばされて来た。

それを見た俺は今まで感じたことのない怒りを感じ、溜め込んでた魔王達への怒りが爆発して、ゴリラの獣人2人に向かって歩き始めていた。


 「…って、錦木!? 何してんの!」

 「…。」

 「ちょっと、止まってよ!!」

 「クルーシア。 カップラーメン置いていくから、見ておいて。」


 やばい、何も聞こえない。 何か喋ってるのは聞こえるけど、怒りで何も聞こえない。 多分「止まって」っていってるんだよね? ごめん、クルーシア。 止まれないし、止まらないや。


 そしてゴリラの獣人の前に来た。


 「あぁ? なんだてめぇ。 この村では見たことねえ、しっかりとした服着てんな。」

 「おぉー、よく喋るし、よく服って単語知ってるな。 ゴリラのくせに。」


 俺は死ぬ事はなんとなく予想できていた。 だから煽りに特化する事にした。 もっと煽れ、こいつらがビビるくらい煽れ。 …そーだ、あの異世界転生する時に出会ったおじさんの真似しよ。


 「ウホウホ、ウホ……くくくっ。」

 「何笑ってんだテメェ!」

 「くくく、ぷぷぷっ」


 俺はあのおじさんのように、ガ⚪︎使の松⚪︎⚪︎志ように、口を大きく開けて舌を出して笑いを堪えていた。


 「もういいや、テメェのその服よこせ。」

 「ガシッ」


 ゴリラの獣人が俺の服の胸元を掴んだ。 すると、異世界転生する時におじさんがくれたネックレスが飛び出て来た。


 「!!!!!」

 「な、なんと!」

 「嘘でしょ…錦木…。」


 ゴリラの獣人、クラーク村のみんな、クルーシアが驚き、固まった。 ん? なんだこのネックレス、なんか価値ある物なのか?


 「な、なんでっ…そのネックレスを持っていやがる!!」


 ゴリラの獣人が体を震わせ、ビビり始める。


 「なんだ? そんな価値のある物なのか?」


 周りを見渡すと、驚き固まっている人、拝む人、体がブルブルと震えている人がいた。 そして俺の元にクルーシアが走ってくる。


 「価値のある物もなにも、そのネックレスはこの国の王になる資格のある選ばれし者、「超能力者」が身につける物だよ!」


 うわ、そういう事ね。 だからあのおじさんは「持って行け」って強く言ってたのか。 


 「錦木、一体誰からそれ授かったの? もしかして「選ばれし者」なの…?」


 クルーシアが俺に問いかける。 「誰にもらった」か…。 あのおじさんは一応神様みたいな人なのか? まぁ、いずれにせよ凄い人には変わりないだろうけど。


 「これは真っ白な世界で出会った、神様みたいな人から貰った。」

 「!!! い、逸話通りだ…。」


 周りの一同はまた驚く。 どうやらそういう言い伝えみたいなのがあるらしい。 え、やっぱすごい物なんだ。 でも俺、超能力じゃなくてカップラーメンしか持ってないんですけど…。 多分この後、「どういう能力だ!」って聞かれるよな。


 「て、テメェの能力はなんだ!! 電気を操る能力か? 人の考えを読む能力か? 敵の視界を奪う能力か? 一体なんなんだ!」


 ほら、やっぱりこのパターン。 そりゃそうなるよね。 っていうか、超能力って攻撃的なものだけだと勝手に思ってたけど、サポート系の超能力もあるのか。 そうだな…。


 「俺の能力は「3分あれば敵を打ち負かせられる能力」だ。」

 「へ、へへ、なんだその大雑把な能力。 嘘だね!」


 こういう何も信じないキャラってアニメでよく見てたけど、本当にいるんだ。 なら俺の答えは決まってる。


 「3分。 待ってみるか?」




 【残りのカップラーメン数】 328個





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 読んでくださり、ありがとうございます。 感想、評価をしてくださるととても有難いです。 皆様の評価をもとに、作品をよりよくしていきます! まだまだペーペーですが、よろしくお願いしますm(_ _)m

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