続.わたし間に合ってます。わたし達結婚しました。

志乃原七海

第1話『ズバリ、子作り旅行!』



小説:続・わたし間に合ってます! ~南国ハネムーンは子作り宣言!?~


第二章 楽園の甘い罠と、未来への第一歩


どこまでも続くエメラルドグリーンの海と、真っ白な砂浜。照りつける太陽は強いけれど、頬を撫でる風は心地よく、甘い花の香りが鼻腔をくすぐる。

私、橘菜々美は、新婚旅行で南国のリゾートアイランドに来ていた。隣には、昨日までの「橘圭一さん」から、晴れて「私の夫」になった圭一がいる。


「んん~っ、最高……!」


プライベートプール付きヴィラのテラスで、大きなストローハットを目深にかぶり、リクライニングチェアに寝そべって菜々美は大きく伸びをした。普段の仕事モードとは真逆の、完全に気の抜けた姿だ。

結婚式と、その後の親戚一同への挨拶回りで一週間ほど神経をすり減らした私たちへの、これはご褒美。七泊八日の日程は、圭一が「ゆっくり羽を伸ばしてほしいから」と手配してくれた。


「菜々美、日焼け止め、ちゃんと塗った?」

プールから上がってきた圭一が、濡れた髪をかきあげながら隣のチェアに腰を下ろす。水滴が太陽の光を反射してキラキラと輝き、思わず見とれてしまう。うん、やっぱり私の夫はイケメンだ。

「塗った塗った。圭くんこそ、背中とか塗ってあげようか?」

「ん、お願いしようかな」

素直に背中を向ける圭一に、菜々美はにんまりと笑いながら日焼け止めを手に取る。

新婚旅行なんて、こういうことの連続でいいのだ。観光?アクティビティ?そんなものは二の次、三の次。


「ねえ圭くん、ハネムーンってさ、結局こういうことでしょ?」

圭一の広い背中に日焼け止めを塗り広げながら、菜々美は確信に満ちた声で言った。

「こういうこと、とは?」

「ひたすらイチャイチャして、あとはもう、ね?」

菜々美が意味深に圭一の肩をツンツンと突く。

「……ああ、そういうこと」

圭一は少し照れたように笑って、菜々美の手をそっと握った。


日本を発つ前、親友の早紀にハネムーンの予定を聞かれた時のことを思い出す。

『で、ナナ、ハネムーンはどこ行くの?何すんの?』

『んー、南の島で七泊。ほぼホテルから出ない予定』

『はぁ!?何それ、もったいな!せっかくの海外でしょ?観光とかしないの?』

『いいのいいの。ハネムーンなんて、イチャイチャするために行くんでしょ?それ以外に何があんのよ』

電話の向こうで早紀が噴き出す音が聞こえた。

『あんた、相変わらずブレないわね……。まあ、橘の御曹司様とイチャイチャ三昧とは、羨ましい限りだけどさ!』

『でしょ?しかもね、私的にはこれ、ただのイチャイチャ旅行じゃないのよ』

『え、なになに?』

『ズバリ、子作り旅行!』

『ぶっふぉ!!』

早紀が盛大にむせていた。無理もない。あのゴミ屋敷の住人で、コンビニ食が主食だった私が、まさか結婚してすぐに子作り宣言するなんて、誰が想像できただろう。


「圭くんもさ、そろそろパパになりたいとか、思わない?」

日焼け止めを塗り終わり、圭一の隣に再び寝そべりながら、菜々美は切り出した。

圭一は少し驚いたように菜々美を見たが、すぐに優しい笑顔になった。

「……そうだね。菜々美との子どもなら、きっと可愛いだろうなって思うよ」

「でしょー?私と圭くんの子だよ?絶対美形だし、頭もいいはず!」

根拠のない自信に満ち溢れる菜々美に、圭一は苦笑する。

「まあ、それは生まれてみないと分からないけど……でも、家族が増えるのは楽しみだね」

「うん!だから、この七泊八日、有効活用しないとね!」

菜々美は悪戯っぽく笑って、圭一の頬にキスをした。


昼間はプールサイドでカクテルを飲んだり、部屋でゴロゴロしたり。時折、ホテルのプライベートビーチを散歩するくらいで、本当に何もしない贅沢。

夜は、満天の星空の下、波の音をBGMにテラスで二人きりのディナー。美味しい料理とワインに舌鼓を打ち、そして――。


「ん……圭くん……」

「菜々美……」


甘い吐息が部屋に満ちる。

仕事の時のように理路整然と物事を考える頭脳は、今は完全に機能停止。ただ、目の前の愛しい人の温もりと、高鳴る鼓動だけを感じている。

これが、私が望んだハネムーン。

バリバリのキャリアウーマン、課長佐藤菜々美としての顔は、今だけはどこか遠い国のオフィスに置いてきた。今はただ、橘圭一の妻、橘菜々美として、この瞬間に身を委ねる。


(橘家の跡継ぎ問題とか、色々大変なこともあるんだろうけど……ま、なんとかなるっしょ!)

持ち前の楽天的な思考が、アルコールと幸福感でさらにブーストされている。

この楽園での日々が、私たちの未来への大切な第一歩になる。そう信じて、菜々美は圭一の首に腕を回した。


「ふふっ、頑張っちゃうぞー」

そんな小さな決意を胸に、南国の夜は更けていくのだった。


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