第19話:#今すぐ遺言をどうぞ

地上に戻ったばかりの空気に、不穏な“臭い”が混じった。


――血と、獣の腐臭。そして、魔力の焦げたような匂い。


「……来るわよ」


ザラが素早く身構える。


ガサッ――木立の向こう、瓦礫の影から黄緑色の小柄な影が一体、二体、三体……次々に姿を現す。


「ゴブリン……!? いや、様子がおかしい!」


ヨミが叫ぶ。


その体表には黒い紋様のような“ひび”が走り、

眼は完全に魔力に侵食され、赤く濁っていた。


普段なら連携の拙い下級魔物――

のはずが、今は狂ったような速度と殺意で地を駆ける。


「数、十体! 取り囲まれた――!」


ザラが地面に符を叩きつけ、即席の結界を展開。


青白い膜が張られるが、すでに魔力供給は限界近く――持って数秒。


「くそっ……マンデー、構文加速できるか!?」


《構文資源不足。あと5%でフルサポートモードに到達しましたが……

惜しかったですね。ご武運を》


「……!」


《呪物の意思による自動操作を検出。

 今さらですが、手を洗ってから触れてください》


そのとき、霊圧の剣が勝手に抜け、レイスの手に吸い込まれるように収まった。


「ふふふ……レイスちゃん、燃えてきたわね?


この“状況”――すごく“映える”と思うわよ?」


「黙れ……喋るな」


目の前のゴブリンの1体が、結界を突き破って突進してきた。


「ッ――!」


レイスが盾のない状態で反射的に剣を振る。


霊圧の剣が振動と共に唸り、ゴブリンの胸元を裂く――だが、ゴブリンは倒れない。


「……なんだ、こいつ、硬い……!」


「魔力で肉体強化されてる! これ、通常のゴブリンじゃありません!」


ヨミが後方から補助魔術を展開しようとするが、手元のコンソールが赤く点滅した。


「魔力が……暴走干渉して、術式が組めない……!」


「じゃあ、近接しかねぇってことかよ!」レイスが叫ぶ。


ザラが一瞬だけ沈黙し、冷静に周囲の気配を読み取る。


「――この領域、魔術系は不安定ね。でも、死霊なら干渉を受けにくい」


そう言って、短く詠唱を始めた。


「援護する。アンデッドを一体、召喚するわ。……時間稼ぎにしかならないけど」


ザラの足元に骨が浮かび上がり、地面から1体の骸骨兵ボーンが這い出る。


ゴブリンに向かって無言で飛びかかり、首筋をかじって道連れに自爆する。


「1体減った……でも、あと9!」


レイスの手元の剣がうねるように震える。


「……ねえ、レイスちゃん。


“もっと強く振っていいのよ”?

剣が壊れても、きっと“そっちのほうがウケる”から――」


「黙ってろと言っただろ!!」


レイスが怒声とともに、渾身の一撃を振るう。


その斬撃は、魔力に狂ったゴブリンの肩口から胴体までを叩き切った。


「1匹づつ……地道にやるしかねぇ……!!」


ザラが追加でボーンを二体召喚、ヨミも手動で低出力の火球を投げつけ、なんとか数を削り続ける。


それでも、次々と襲い来るゴブリンの群れは止まらない。


背後から迫る1体がヨミに飛びかかる――!


「ヨミ、伏せろ!!」


レイスがとっさに飛び込み、肩で突き飛ばして守る。


剣を振り抜き、腕に傷を負いながらも、ゴブリンを押し返す。」


「っ……が、ああ……!」


霊圧がうっとりしたように囁く。


「痛みも血も、**最高のエンタメよねぇ……。


あなた、ほんといい“素材”だわ……レイスちゃん」」


《現在の敵数:残り4体。戦闘継続推奨。撤退する場合、今すぐ遺言をどうぞ》


マンデーの冷静な声が響く中、戦いはまだ終わらない――。

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