13
「いいかげんにしろ」
怒気を含んだ国王の言葉に、四人の動きが止まった。
「婚約の結び直しはしないというのが、アレクシアから出された婚約解消の条件の一つだ。
お前ら、アレクシアに感謝しろよ。彼女のお陰で、こんな茶番が外部に漏れずに済んだ。危うくお前らのアホさ加減を全校生徒に晒してしまうところだった」
国王に貶められ、オーギュストがアレクシアを睨みつける。
「おいアホ、勘違いするなよ。この茶番の開催を決めたのは私だ」
「え……」
「私としてはお前らの希望通り、卒業パーティの会場で行いたかったが、折角のパーティを邪魔される生徒たちがかわいそうだから、とアレクシアに止められた」
「なんでそんなことを……」オーギュストの声が掠れる。
「お前に己のアホさを思い知らせるためだろうが。
王太子から降ろされた後に逆恨みをしないよう、お前を利用しようとする甘言につられることがないよう、徹底的に己のアホさをお前自身に叩き込みたかったからだよ」
「王太子位から降ろされるのですか……」
「当たり前だ。お前がやったことは犯罪ではないが、王家の名誉を失墜させた。その責任は取ってもらう」
国王の鋭い眼光から、父の怒りがどれほどのものだったのかをオーギュストは思い知って身震いをした。
「で、今のお前には婚約者がいないわけだが、真実の愛とやらはどうするつもりだ? どの道を選んでもかまわんぞ」
オーギュストはしばらく沈黙し
「……ヒロナとは、別れます」
ようやくそれだけを口にした。
「好きにしろ。ただし、その男爵令嬢との真実の愛とやらの王家の答えは出ている。
王家は、王族とその男爵令嬢の婚姻は認めない。結婚したくば王族から外れろ。
別れるというなら、もう二度と会うな。もし今後、接触が発覚したら王族から外す。以上だ」
オーギュストは息を呑んで、小さく「わかりました、もう二度と会いません」と答えた。
ヒロナが驚いて「オーギュスト殿下、もう私と会えなくなるんだよ? サイモン様もキース様も、それでいいの?」
三人は何も答えない。それが答えだった。
国王は、青い顔で立ちすくむオーギュストをしばらく眺めると
「それがお前の選択でいいのだな。それならば、明日からお前を再教育をする。
影から提出された報告書が教材だ。学園生活で、お前が何を言って、周囲の態度はどうだったか。すべて記録されている。
己の恥ずかしい過去を客観的に見て己の行動を省みろ」
国王はアレクシアに視線で合図を送る。
「報告書の内容を少し読み上げますか? では、かいつまんで。
某日、アレクシア様がヒロナ様の態度をたしなめる。ヒロナ様は、学園では身分は関係ないと反論。オーギュスト殿下が、ヒロナ様の肩を持ち『ヒロナの言う通りだ、皆もそう思うだろう』と周囲の生徒に同意を求める。周囲は頷くことなく黙って目を逸らして、それとなく反意を示すが、オーギュスト殿下は全く気づかない様子で『ヒロナの持つ平民の普通、という感覚が貴族には必要だ』と演説を始め……」
「やめてくれ!」
オーギュストが顔を真っ赤にして話を遮った。
アレクシアは薄く笑うと
「私達がさんざん忠告していたことをようやくご理解いただけたようでなによりです。この手のものは、巷では黒歴史というらしいですよ。私なら恥ずかしすぎて死にたくなりますね。こんな報告書が大量にあります。これを読ませられていた陛下のご心労をお察ししますわ」
「再教育のあとは王宮での下働きをして、〝この国の普通〟について勉強し直せ。それが終わるまで公務に就くことは禁止する。
対外的には、お前が王太子位から降ろされたことのみを発表するが、お前の現状を見れば皆、察するだろう」
オーギュストは、蔑まれてこそこそと噂をされる己の姿を想像して足が震えた。
縋るようにゲスト席にいる母と弟を見ると、二人は、公務のときの王妃と第二王子の表情で見つめ返してきた。
オーギュストは、この二人はもうすべて知っていて自分の味方ではないのだと悟った。
「以上で、断罪を終了いたします。皆様ご参加ありがとうございました」
アレクシアの声がホールに響き渡った。
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