04
質疑応答が終わると、アレクシアの背後から先程の男子生徒が現れ、司会台の上に書類をそっと置いて下がっていった。
アレクシアはその書類にざっと目を通す。
「それでは、次は、私からの質問と反論をさせていただきます。
先程、オーギュスト殿下がステージ上から投げた書類ですが、内容の検証が完了いたしましたので、これに沿ってご説明いたします」
書類から目を上げ、ステージ上の四人に向き直った。
「この証拠を調べてまとめたのは誰ですか?」
「私とキースです」サイモンが返事をした。
アレクシアは眉根を寄せて
「あなたは、ええと、サイモン様でしたっけ?」
父だけでなく妹にまで他人のふりをされ、サイモンの顔が歪む。
「私がヒロナさんをいじめていたという証拠はどうやって集めたのですか?」
「私とキースの二人で、学園の生徒に聞いてまわりました。その結果、関わったすべての人間がアレクシアに脅されてヒロナをいじめていたと自供しました」
アレクシアは書類に目を落としながら尋ねる。
「提示された証拠は、生徒の供述がほとんどですね。
物的証拠も多少ありますが、私が書いたとされる指示メモは日付と時間が書いてあるだけですし、私が制服を破くように渡したとされる小型ナイフもありきたりのものです。実際に私が関与したことを示す証拠にはならないと思いますが?」
「証拠としては弱いですが、アレクシアに脅されたと嘘を付く理由がありません。むしろ貴族子女にとって、公爵令嬢に罪をなすりつけることは、罪を自白するより危険な行為です。
聞き取り調査のとき、関係者は最初、皆一様に押し黙っていましたが、王太子殿下と私達が必ず守るからと粘り強く交渉すると、少しづつ話してくれるようになりました。
全員からアレクシアの名前が出たことは驚きましたが、口を閉ざす理由がわかり、納得しました。
公爵令嬢で、宰相の娘で、王太子殿下の婚約者であるアレクシアに命令をされれば従わないわけにはいきませんから」
「そうですか。ありがとうございます。続いてヒロナさん」
「は、はい」
「あなたが、私に直接された嫌がらせやいじめはありますか?」
「アレクシア様からは物理的ないじめじゃなくて、貴族のマナーやルールとかをきつく言われました」
「それについてあなたはどう思いましたか?」
「正直に言って、アレクシア様の話はマナーの授業で習った内容だったので、注意されなくてもわかっていました。
それを、わざわざオーギュスト殿下たちがいる前で、私に恥をかかせるように言うのはいじめだと思います。
あと、男性との距離感についてもよく注意をされましたが、私は男女間であっても話し合いはすべきだと思っています。婚約者の有無や、男女関係なく、沢山の人と話をして信頼関係をつくっていくべきだと思います。これは〝平民では普通〟のことです」
アレクシアは、そうですか、と無表情のまま言うと、ステージ上の男性三人を順番に見て、最後にサイモンで視線を止めた。
「私がヒロナさんと話をするときは、だいたい皆様方がそばで目を光らせていましたけど、私の言動がいじめに該当していたと思いますか? サイモン・ブラックバーン公爵令息様?」
アレクシアから先程までの茶化した雰囲気が消え、普段のお兄様という呼び方ではなく、公の場での正式な呼び名で問う。
サイモンは、自分が試されていることがわかった。客席からの父の視線が痛いほど突き刺さる。
こんな舞台を用意していたのだから、アレクシアも調査をして陛下に報告済だろう。そして陛下たちも独自に調べている可能性が高い。
本来ならば、ヒロナたちの主張に合わせて、いじめだったと言うべきなのだろうが、この状態ではそれは悪手だ。なによりサイモンにとって無能扱いされることは何より耐え難い。
サイモンはかつてないほどの緊張に唾を飲み込み、言葉を選ぶ。
「いじめとは思いません。厳しい物言いだったのは確かですが、助言やアドバイスと言われる類のものだったと思います」
オーギュストとヒロナが驚いてサイモンを見る。サイモンは二人を見ることなく前を向いたままだ。
「サイモン。裏切る気か」オーギュストがサイモンを睨みつけた。
サイモンの返答に、アレクシアの口元が少し緩んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます