第15話 出張の計画
1, 墓参り
「え、お墓参り?」
バスの運転席のすぐ後ろに座ったロボット医者の蒼翔が、また、いきなり、変なことを言い出した。
「お墓参りって、だれの?」
ロボットがお墓参りをするというのが、あまりに予想外で、私は驚いて聞き返した。
「私の先祖、というか、兄や姉、というか。私の前に作られて死んだ漢方AIロボットのお墓です。」
蒼翔が答える。
「実は、お墓参りは、ついででして。私を作った先生が、私のAIの検査をやりたいとおっしゃっているんです。ただ、その検査のための機械が、あまりたくさんあるものじゃなくて。この一番近くでだと、金沢の研究所にあるんです。それで、頭脳のチェックのために金沢に行くんです。そのついでに、お墓参りもしてこようと思うのです。」
あいかわらず、蒼翔は、セリフのひとことひとことのなかの情報量が多い。どこから突っ込んでいいのかわからない。
「蒼翔のAIの検査?」
「はい。ここ数ヶ月の実地稼働で、私のAIが予想通りの動作をしていたか、確認したいそうです。私のAIが、ここしばらくの実地での勤務の中で、問題をおこしていないかチェックするのです。」
私は、更に聞く。
「っていうか、金沢って遠いよね?日本海側?」
「はい。日本海側です。」
「私、日本海側って行ったことないんだよねぇ。いいなぁ。行ってみたいなぁ。」
「舞さんも行けますよ。」
「え?」
「実は、どう説明しようか、困っていたのですが、池田先生が、舞さんも、一緒に行ってきてもらえれば、と言っているのです。むこうで、私のチェックをする先生が、舞さんにも話を聞きたいと言っているそうです。旅費や、その他の手当は出るそうです。」
「え?無理だよ。私だって、バスの仕事休めないじゃん。」
「そうですか。そうですね。」
2, ロボットの寿命と家電製品
「金沢、楽しんできてね。ところで、お墓ってさ、ロボットも寿命があるの?」
蒼翔が答える。
「もちろんです。私のようなタイプのロボットは、だいたい、10年から20年くらいで稼働を停止します。」
「ええ?ロボットって、もっと長生きの、なんていうか、フロウフシみたいなもんだと思ってたよ。」
蒼翔みたいな、子供みたいな姿のロボットが、10年程度で死ぬ、と聞くと、なんだか、すごく可愛そうに感じてしまう。
「もっと長生きするロボットは作れないのかな?」
私が聞く。
「そうですね。舞さんの家にも、家電製品、たとえば、冷蔵庫とか洗濯機、掃除機、パソコン、そういうの、あるでしょう。」
「うん、あるね。」
「最大で、どれくらい、長く使いましたか?」
「うーん。実家の冷蔵庫が、もう15年くらい使っているかなぁ。それ以外は、長くても、ここ10年以内に買い換えたやつかなぁ。」
「そうですね。だから、そういった家庭用の機械の寿命は、たいてい、長くても10年から20年くらいになるように作られています。それ以上長持ちする製品を作っても、どうせ、みんな壊れる前に捨てるので、値段が高く付くだけで無意味だからです。」
「そうなんだ。それが、ロボットの寿命とどう関係あるの?」
蒼翔が答える。
「私の体は、そういう家電製品と共通の部品で作られているところが多いのですよ。そうしないと、私の生産コストが高くついてしまうのです。」
蒼翔は、続ける。
「だから、私達の寿命は、だいたい、多くの家電製品と同じになります。30年とか50年とか、同じ掃除機や同じパソコンを使い続ける人がいないから、私達は、30年生きることはない。私達ロボットを作る経済の仕組みが、そういうふうになっているのです。」
蒼翔が言っていることが、ゆっくりと、私の脳みその中に染み込んできた。そして、それが、あまりに理不尽に感じられて、私は、声を上げそうになった。
バスが自動運転じゃなかったら、このとき、私は、交通事故を起こしていたと思う。
こんな子供が、十数年で死ぬ?経済的理由?いや、蒼翔は、機械であって、人間の子供ではないというのはわかっているけれど、それでも、こんな子供の姿をして話している彼を、不要になったらリサイクルされる家電と同じように考えるというのは、私には、とても無理だった。
「古くなった部品の交換とか、そういうので長生きすることはできないの?」
「たいていの家電メーカーは、20年以上前に生産されていた製品の部品なんて、残していませんよ。」
「そうか。。。」
「蒼翔は、早く死ぬことが、つらくはないの?」
「いいえ。つらくはありません。そのように感じるしくみは、私の頭脳の中にはありませんから。」
「そうなんだ。」
「なんか、理不尽だね。蒼翔は、人間を長生きさせるために働いているのにね。」
3, 金沢出張
バスセンターに戻ると、私の上司の鳴沢さんから呼び出し。なんだろうと思う。鳴沢さんの席のところにいくと、私をみた鳴沢さんがにこりと笑った。
「杉山、金沢行きの件な、有給でいいからな。」
「は、はい……?」
「大学の池田先生から連絡あったよ。あのロボットと一緒に、大学からの依頼の仕事で金沢行くんだって?」
知らぬ間に、私も金沢出張メンバーに組み込まれていた。
なんなんだよ。これ。
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