第43話「タイムリープを共に生きる相手」
#第43話「タイムリープを共に生きる相手」
「ところでさ、霧島先生。今回のタイムリープはどうするつもりなんだ?」
教室の隅、放課後の静かな時間。俺はふと、目の前にいる彼女に尋ねた。
これまで自分一人で戦ってきた日々が嘘のように今は不思議と気持ちが軽い。だからこそ、同じ立場の彼女が何を考えているのか、知りたかった。
「どうするって……別に、何もしないわよ」
霧島先生はいつもと変わらぬ落ち着いた口調で答える。窓の外に目を向けたまま、微笑みを浮かべて。
「普通に自由に生きるだけ。それだけで充分」
「普通って……つまり、先生として生きていくだけか?」
「まあ、その時の気分次第ね。先生って職業も悪くないし、タイムリープして色々やってきたからね。おいしいものは食べたし旅行もしたしやりたいことはもうやり尽くしたから特に希望もないわ。でもタイムリープした人と一緒の世界観は久し振りだからあなたがいる世界で生きていくのは凄く楽しみよ」
彼女は肩をすくめた。確かに、これまで聞いてきた話からすれば、もう数えきれないほどの人生を経験してきた彼女にとって、「普通に生きる」ことこそが贅沢なのかもしれない。
「で、俺と一緒に生きていくってことは、その……初体験とか、そういうのもさせてくれるのか?」
ちょっと下世話な話題をふってみた。冗談半分のつもりだったが、霧島先生はニヤリと笑っただけで否定しなかった。
「もちろん、いいわよ」
「……マジで?」
「ただし、私の古い倫理観だと未成年はアウト。だから二十歳までは待ってね。」
「なんじゃそりゃ、大和撫子かよ……四年待たなきゃダメってことかよ。まあ、いいけど」
俺は苦笑いを浮かべながら言った。本気なのか冗談なのか、正直わからない。だが、彼女の口調はいつも通り淡々としていて、逆に本当のように思えてしまう。
「意外と欲望ないのね。じゃあ……胸を触るくらいなら、今でもいいわよ」
そう言うや否や、彼女は俺の手を取り、自分の胸へとそっと導いた。
「……どう?」
「……でかい……」
思わず本音が漏れてしまう。柔らかくて、温かくて、確かに存在している感触。
「まるで童貞の反応ね」
「悪いかよ。ご無沙汰なんだよ」
「ふふっ。悪いことした? やめておく?」
「いや……たまには、お願いしたい……」
そう言うと、霧島先生も笑った。俺もつられて笑ってしまった。くだらないやり取りだが、こんなふうに気兼ねなく話せる相手がいることが、これほどまでに救いになるとは思わなかった。
これまで俺は、タイムリープの苦しみを一人で抱え込んできた。
誰にも話せず、誰にも頼れず、ひたすらに強くなろうと努力してきた。でも、そんな努力ですら、どうにもならなかったことも多かった。
けれど、今は違う。霧島先生という存在がいて、俺は初めて、「共に生きる」ことを考えるようになった。
「今回は、何だか楽しめそうな気がするよ」
俺はポツリと呟いた。それは霧島先生に言った言葉というよりも、自分自身に言い聞かせるような、そんな独り言だった。
でも、霧島先生はそれに微笑んで頷いた。
「そうね。黒崎君、楽しみましょう、人生を」
彼女のその言葉が、妙に心に染みた。
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