第26話 虫のいない朝、紅葉(こうよう)を撮る

一気に虫たちが減ってきた。咲く花も限られてきた。その分、山からは紅葉こうようがゆっくりと里へ下りてくる──季節のバトンが渡る音が聞こえる気がする。今日は、そんな「葉撮り」のお話をさせてもらおうと思う。


群馬では、志賀高原や谷川岳のあたりから色づきが始まり、やがて街へ。今回は、自分のお気に入りの紅葉こうようポイントをいくつか巡ってきた記録だ。


虫たちの姿が少なくなった朝6時45分。気温は10℃を下回る。先日、知り合いから譲り受けたヒーターグローブを試す好機が来た。YAMAHAのシグナス・グリファスではなく、配線を済ませてあるV-maxで出動。下半身はズボンの上からオーバーパンツ、上半身は電熱ベストの上にスキーウェア。プレデターの牙は前日フェイスマスクに縫い付けておいたので、見た目だけは勇ましい(たぶん暖かい、はず)。


目指すは二度上峠。平成の大合併のおかげで、峠の手前まで高崎市というのは、何度走っても不思議に感じる。とはいえ、V-maxでも片道およそ一時間。峠を越えれば北軽井沢。避暑地として名高い長野県軽井沢町の北隣にある、群馬県の高原地帯だ。この時期の外気は張りつめ、肌に当たる空気が針のように鋭い。赤城おろしや榛名おろしに向かって自転車をこいだときの記憶がよみがえるが、バイクはアクセルひとつで、頬に感じるその「刺す」感触が一段と際立つ。群馬でもとびきり寒いエリアだが、そのぶん色は冴える。


別荘地の入口に、毎年撮らせてもらっている大きな紅葉もみじがある。根元は小さな石垣の上。下から煽りで構図を作りやすく、朝の光が透けると葉脈までが浮かび上がる。今年もいい具合に色づいていた。ヒーターグローブの効果は上々。いつもなら指先がキンキンに冷えて信号待ちがつらいのに、今日は余裕がある。機材の準備に集中できるのはありがたい。


ひとしきり紅葉もみじを楽しんで、帰路へ。道すがら、恒例の自撮りポイントに立ち寄る。何年も前、路面が落ち葉で一面の茶色に染まっていて、正面からやって来たライダーがちょうど画面のアクセントになった。あの絵をV-maxで再現しよう──そう思ったのに、その日に限って三脚を忘れていたのだ。それ以来、同じ時期に通っているのだが、前夜の風で葉が掃き清められていたり、時期を外して木々がまだ緑だったりと、なかなか巡り合えない。今年も例に漏れず。数日前の木枯らし一号が、見事に落ち葉を片付けていた。


それでも、いつか。あの日のように枯れ葉を踏みしめ、マフラー音がふかふかの絨毯に吸い込まれていく瞬間を、自分が被写体になって残したい。そんな未完の課題が、また来年の楽しみを作ってくれる。


11月も中盤以降になれば、吉岡町の桃井城跡、高崎市内の銀杏いちょう並木も色づく。徳明園の見事な紅葉もみじも外せない。よく「一日の寒暖差が大きいと綺麗に紅葉こうようする」と聞くが、同じ場所でも、緑から黄、そして鮮やかな赤へと滑らかに移ろう木と、少しどす黒い赤で止まる木がある。あれは気温差の違いか、木の種類の違いか。風の当たり具合、土の湿り気、日照の角度──撮って、見比べて、毎年少しずつ仮説を立てるのが楽しい。


虫たちと会えない季節。バイクで移動して、変わりゆく色を追いかけるのも悪くない。エンジンの鼓動が、シャッターを切るリズムを作ってくれる。


【あとがき】

作中に登場した北軽井沢の紅葉もみじや落ち葉の道、桃井城跡の銀杏いちょうなどの写真はInstagramに載せています。インスタで #虫撮りライダー もしくは #vmarutax を検索してみてください。見つけたら、そっと「いいね」してもらえると嬉しいです。

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