第15話 涼を求めて

今年の夏は尋常ではない暑さだ。9月に入っても衰え知らず、蝉ですら鳴けないほどの酷暑で、鳴き声が聞けるのは朝夕のわずかな時間だけ。25℃~35℃くらいが蝉の活動温度とされているが、日中はそれを大きく超えてしまうのだ。もっとも、最近は高齢のせいか耳鳴りと蝉の声が区別できず、思わず苦笑いしてしまうが……。


そんな暑さの中で、少しでも涼しげなものを思い浮かべようと考えた。虫撮りライダーとして頭に浮かんだのは「水生昆虫」だった。先月まで、何度も足を運んだ里山がある。そこに行けば、ナミルリモンハナバチやオオセイボウに出会える場所として、自分にとっては特別なフィールドだ。その里山には、小川というよりは細い水路があり、そこでオオシオカラトンボが産卵する姿を撮影できた。その場所は来月から「共生サイト」=日本版OECM候補地に指定される予定で、人の暮らしと産業活動を両立しながら生物多様性を守る環境省お墨付きのエリアになるという。管理人さんによれば、そこでは有名大学の教授たちが調査に入り、珍しい水生昆虫も確認されたらしい。


しかし、素人の自分が勝手に水を汲んだりしたら、生態系を乱しかねない。それでは本末転倒だ。そこで思い出したのが、以前孫と訪れた「さいたま水族館」だった。桐生ヶ丘動物園や館林のつつじが岡公園水産学習館も頭をよぎったが、昆虫展示があったか記憶が曖昧。少し距離はあるが、羽生まで足を延ばすことにし、愛車シグナス・グリフィス──そう、グリちゃんのハンドルを切った。


灼熱の中、汗だくで駐輪場を探すも見つからず、仕方なく自動車用の駐車場を拝借することに。バイクにとって肩身が狭い場所は多いが、隅や三角スペースを見つけて停めるのが常だ。この日もやむなくそうさせてもらった。


トイレに立ち寄ると、中から出てきた青年が「うわ~~蛾がいる」と声を上げた。さっそく虫撮りライダーの血が騒ぐ。ライニングの壁にとまっていたのはウンモンスズメ。雲の模様が美しい大型の蛾で、その姿はまるでステルス戦闘機。いや、むしろ戦闘機がこの蛾を真似たのではないかとさえ思える。とはいえ、マクロレンズを構えたままトイレから出る姿は怪しく見えないかと余計な妄想をしつつ、水族館へ向かった。


駐車場から館までは400mほど。道中、キアゲハかナミアゲハが自分の周りを2周ほど飛んでくれたが、止まってくれることはなく撮影は叶わなかった。受付で入場料500円を払い館内へ。特別展示中でいつもより100円高いが、その分楽しみも増える。以前は屋外にあったドクターフィッシュのコーナーも、今は館内に移されていた。思い出すのは、かつて母子2組と同じ水槽に足を入れたとき、自分の足にばかり魚が群がってしまったこと。恥ずかしくもあり嬉しくもあったが、今では少人数ごとの体験に改善されているようだ。


館内は冷房が効いており、淡水魚中心ながら立派な展示が並ぶ。目的の水生昆虫コーナーに辿り着くと、最初に目に入ったのはゲンゴロウ。近くにいた祖母と孫らしき親子は「ゴキブリみたいで気持ち悪い」と言っていたが、自分にとっては宝物のような存在。夢中でシャッターを切った。ただこの日は、ガラス映り込みを防ぐシリコンフードを持ってこなかったのが痛恨だった。レンズ先端に装着し、ガラスに密着させて反射を防ぐ便利グッズだ。おかげで水カマキリの撮影には苦戦。隙間を狙って短時間で撮るのがマナーだが、自然相手の撮影と違ってじっくり構えることができないのは水族館ならではの難しさだ。それでも何とか、ゲンゴロウと水カマキリの姿を収めることができた。


館を出ると、また猛烈な暑さが襲ってきた。隣の水郷公園でトンボを狙うつもりだったが、炎天下で粘っていたら帰る前に溶けてしまいそうだ。グリちゃんの元へ戻ると、案の定シートが焼けるほど熱くなっていた。水で濡らしたタオル地のハンカチで拭いても、瞬く間に乾いてしまう。それでも多少は冷めたので跨って帰路についた。


ふと考える。このまま温暖化が進めば、今日見かけた子供たちが大人になる頃には45℃を超える日が当たり前になるのではないか。南国の昆虫が群馬で普通に見られる未来も来るかもしれない。その予感を裏付けるような出来事が、翌日に待ち受けていた──その話はまた次回に。


【あとがき】

登場したウンモンスズメ、ゲンゴロウ、ミズカマキリたちの写真はInstagramに投稿しています。

インスタで #虫撮りライダー または #vmarutax を検索してみてください。見つけたら、そっと「いいね」していただけると嬉しいです。

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