第6話

 家に帰ってきた。

 まだお姉ちゃんは帰ってきてないよう。


「お母さん、ただいま。」


 返事のない挨拶を済ませ、上の階にある自分の部屋へと向かった。

 制服を脱ぎ、部屋着に着替えてから髪の毛を整える。しばらく宿題などをしていると玄関の扉が開く音がした。

 慌てて走って見に行くとそこにはお姉ちゃんがいた。


「お姉ちゃん!!ただいま!!」


「うん。」


 あれ、、、

 いつもなら満面の笑みで「おかえり!小春!」と言ってくれるはずのお姉ちゃんがうん、だけ——————


 お姉ちゃんに何かあったんだ、そうだ、そうに違いない。


 お姉ちゃんが部屋に戻ったタイミングで「大丈夫?疲れてない?」と聞いた。


「何が?」


「挨拶返ってこなかったなーって」


「ああー!湊と付き合えたからかなっ!!浮かれてるのかも!」


 そう笑顔で言いながら自分の服がかかったハンガーをクローゼットに仕舞うお姉ちゃんを見て腹立たしさが消えなかった。


「私が…湊のこと…まだ好きだって知ってるよね…??」


「でも、湊は私を選んだ。紛れもない事実よ」


 音声レコーダーだってあるんだからとその音声を聞いた。

 即答していた。悲しかった。そこでは湊がどういう気持ちで私と付き合ったのかがよく聞こえた。


「聞かなきゃよかった?大丈夫?」


「大丈夫?なんでそんな笑顔でそんな悲しいように言えるの?お姉ちゃん、バケモノみたいだよ?」


 鏡見てみれば?と言いそうになったところで飲み込む。

 そもそも私は小さい頃の記憶があまりない。私の1番古い記憶は私のことをお母さんが暴言を言っているところから始まる。

 せめてもっと記憶力が良ければ……お姉ちゃんのことをもっと理解できたのかもしれない。

 自分に腹が立つ。

 そもそも私はいきなり出てきた邪魔な猫と同じなわけでなかなか湊に懐いて離れなかった。

 それがお姉ちゃんを不機嫌にさせた。

 

 ごめん、ごめん、


「大丈夫、多分小春の方が醜い」


 ひどい?それはあなたの方よ、小春。

 先に目をつけていたのに————————あんたは奪った。

 お姉ちゃんから全てを奪うのね。

 それなら私も猫を被る前の私に戻るわ。なんてったってあなたのことがまだ嫌いだから。

 答えにはなってないかもしれないけど、本当に嫌いだ。

 欲しかったぬいぐるみも小春は買ってもらい私は使わなくなって汚くなったものばかりもらう。

 当たり前のように思われているおさがりの逆バージョンだ。

 もう、あなたのことは嫌いです。お姉ちゃんと呼ぶのもやめて。私はもうあなたの姉ではないから。


「妹に向かって醜い?何それ。ひどくない?」


「そりゃそうよ。あんたなんて大っ嫌い。もうお姉ちゃんだなんて呼ばないで。」


「じゃあ今まで優しくしてくれたのはなんなのよ!!嘘?あれは嘘だったの?こっちが本当のお姉ちゃんだったの??」

 

 泣きそうな声で私にボソボソと話してくるのは面白かった。

 私のことで小春が潰れかけている。

 ——————あぁ、私は元からこういう人間だったんだな。

 今思うとすごい素晴らしいことだと思う。

 もっと早くに気づいていれば————もっと楽になれたのだろうか。


「そうよ!!もう忘れたと思うけどね、お母さんがこんなに厳しくなったの、私のせいなんだぁ!!私が言ったの、じゃあ私にはまだ優しくしてくれてさぁ

?いい人だと思う。ほんとに。」


「私を守るために言ってくれたんじゃないの…??お姉ちゃんが私に教えてくれたんだよ、??」


「はぁ?黙れこのクソガキ!!お前なんて生まれて————」


パチンっ!


 一瞬、何が起こったのかわからなかった。

 ただ1つ分かったのは誰かに頬を叩かれたということだけ。

 小春なのか…??いやでも短時間でこの距離は————

 まさか————————


「鈴夏、あんたをそんな風に育てた覚えなないよ」


「お母さ、ん、…?」


「もうばかばかしい。家を出ていきな!!もうあんたはうちの子じゃない!!」


「待ってよ、ねぇ、…お母さん!!」


 小春の手を引いて歩くお母さんがこんなに懐かしく、愛おしく、また抱きつきたいと思ったのはあの日以来初めてだった。

 せめて、せめて、また………りんって………


「あの時お前のいうことなんて聞かなきゃよかった、そのせいで家族こんなにバラバラに…!!」


パチンっ!


 またあの音が聞こえた。

 小春がお母さんの頬を叩いた。


「ごめん、お母さん。でも、私はバラバラだなんて思ってない。こんなところで喧嘩も望んでない。ただお姉ちゃんと話したかっただけ。————あ、そうだった。もう妹じゃないんだっけ?ごめんね?なんて呼ぼうかなー何が似合うだろ…」


 一呼吸置いてから、あ!あれだ!と笑顔で言ったと思えば私と同じ目線にしてから満面の笑みで言われた。


「鈴夏さん…………♡」


 まるで仕返しと言わんばかりに。

 悪魔のように小さいが重みがあって太さのある声で口は笑っているが目は一切笑っておらず、漫画で言えば」真っ黒に塗りつぶされ鈴夏さんという台詞は刺々しいような何重にもされた丸の枠の中に書かれており、私は地獄にいるような気分を味わった。

 床が地響きをするようにその空気感に蹴落とされ、私は気を失った。現実でも起こるんだ、こういうこと。————と感心しながら目を閉じた。

 閉じる寸前に見たお母さんの顔は小春と同じように悪魔のような顔をしていて、あの日の恨みは晴らせた、私はいつでも小春が1番好きなんだとでも言うように私のことを虫ケラのように見下していた。




——————————————————



——————————



—————





「小春、今までごめんね…」


「いいよ、今まで怖いとは思ってたけど恨んだことはないから。」


「もう違う場所に引っ越す…??」


「うーん、とりあえずは私は麗奈の家に泊まろうかな!!お母さんは深のお母さんとの方が仲、いいんじゃない??」


「そうだね。」


 正直なんであそこまでことが大きくなったのかはわからない。

 ただ、鈴夏さんと湊が同級生だったことは湊から聞いて知っていた。それで仲がよかったのも知っていた。湊が恋心を持っていたことは知らなかった。

 鈴夏さんはずっと私に優しくしてくれていたからまさか本心、本性があんなだったなんて知らなかったし、鈴夏さんが湊を好きだったってことも知らなかった。ずっと応援してくれるって言ったのにまさかの漫画でよくある友達じゃなくて姉に裏切られるとは。

 たったそれだけのことでここまで大きくなったのは鈴夏さんのせいだと私は思っている。だから後悔はない。

 すごくひどくスカッともあまりしないシンプルで少し意味がわからなくてハッピーにもバッドにもならない結末になってしまったことだけが心残り。


 そう頭の中で整理していると着信音が鳴った。湊と表示されていた。

 お母さんにちょっとと席を立ち、リビングを出てやっと電話に出る。


『あのさ————』


「うちの姉と付き合ったんだって?おめでとう」


 あまり怒りを出さないように言ったつもりだったが、隠せていなかったようで大丈夫なのか聞かれたが大丈夫と答えた。


「要件は何?」


『鈴夏が電話に出ないんだが…』


「気絶してるだけだから大丈夫。それより今まで好きでもないのに勝手に振り回しちゃってごめんね?ただの迷惑女だったよね?笑」


『なんで…それを…』


「録音されてたの、気づかなかった?だから判断もできずに振り回されるんだよ馬鹿湊が」


『でも……俺の方こそごめん、』


「もう怒ってないからいいよー」


 意外と棒読みになってたみたいでめちゃ怒ってるじゃんっ!と突っ込まれ久しぶりに楽しく話せたなと思った。

 これで私の幸せは戻ってきた。

 この数日、一気に色んなことが起きすぎたけどすぐに解決してよかったなー!!!



 ま、よくわからんけどハッピーエンドになるのかな、これは♪



    *



「もうー!!!!結局どうなったのよー!!!!」


 小春ちゃんと話し合いしてくる、また結果報告するねとか言っといて報告が全く来ないんだがー!!!!

 私は相談されただけだけど!!

 少しは気になっちゃうじゃん!!!!!


「もうー!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 私の睡眠時間ー!!!!!!!!!!!!



・結局報告が来るまでドラマを見ていた莉里。報告が来たのは翌日朝の8時だった・




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