第43話 今日はおやすみ

第43話 今日はおやすみ








「ーーのじゃ! 今きっとレン達がーーな目に遭ってーー!」



「ーーって下さいマオちゃん! それはーーなんですか!?」



「じゃからーーじゃと言ってーー!」

 


 レインの『アイテムボックス』に入れて置いた以前回収したマナ回復ポーションを飲み、歩けるほどには体力も回復した俺たちはなんとか電車を乗り継いで家に帰宅することができた。


 ようやく一休み出来ると思うと自然と足取りも軽くなるというものだ。

 

 財布にしまってある家の鍵を取りだし家のドアノブへと手をかける。


 

「待って2人とも! ーーな夜遅くに中学生のーーが外に出るのはーーだよ! ここはボクがーーから!」



「なんだか騒がしいな……」


 

「そうね。あたしたちはもうボロボロだっていうのに……」



 ドアを開く前からぎゃいぎゃいと騒がしい我が家の喧騒を聞いていると、今日はもうこれ以上は疲れたくないというのにまたどっと疲れが押し寄せてくる。


 

「……開けるぞ」



「…………」

 

 

 レインと目配せし、意を決して帰宅すると……



「「「「「あ………………」」」」」


 

 すっかり夜も深けた時間帯だというのに、何故かパジャマのまま飛び出そうとするヒナ、マオ、アリスと目が合った。











「お兄ちゃん!」

「レン!」

「ご主人様!」



「大丈夫「なのですか!?「なのじゃ!?「なの!?」



「お、お前らどうしたこんな時間にパジャマで……あと語尾がうるさい」



 色々とあって疲労困憊だというのに、帰宅早々パジャマ姿の3人に押しかけられた。

 

 何故か3人とも額に汗を見せるほど焦っており、ヒナに至っては少し涙目になってしまっている。


 ヒナは目の端に浮かぶ雫に気づいたのか、パジャマの袖でぐしっとそれを拭うと体を近づけて聞いてくる


 

「どうしたはこっちのセリフです! マオちゃんがお兄ちゃんが大変だって言う事聞かなくて……」


 

 そう言いながらマオの方を見るヒナにつられ、当人の様子を見ると


 

「べ、別に我はそんなこと言ってないんじゃからな!」


 

 目が合ったマオは何故かツンデレを発動してくる。

 

 元魔王のロリっ子がツンデレとかキャラが濃ゆすぎるだろ。


 

「心配しなくてもツンデレはレインだけで間に合ってるよ」



 出番の少なさに危機感を感じているのか、設定を盛ろうとするマオを説得してみる。

 

 だが本人にその気はないのか、マオは頭を撫でられている手を右手でぱしっと弾くと激昂しながら言ってくる。


 

「ちっがうじゃ! 我が心配しておったのはヌシの体じゃ! ほれ、我の頬を見てみろ!」


 

「ど、どした!? 誰にやられたんだ!?」



 ほれと言いながら自ら指をさすマオの頬を見てみると、軽く切ったような跡があった。

 

 そこまで深い傷ではなく、血も乾いているが、女の子なのに顔に傷跡が残ってしまうのはいたたまれない。


 傷つけた犯人を追求するべく誰にやられたのかを聞くが、どうやらやられたわけではないらしくマオは首を横に振ると


 

「我は誰にもやられておらぬ。ヒナと下校しておったら急に裂けたのじゃ! その時は何ともなく、傷も浅かったから特に気にしてはなかったのじゃが……帰宅した時に感じた魔力の波長の乱れからレンが大変な目にあっているとわかったのじゃ!」

 


「そうか、それで……」


 

 Tシャツを捲り、腹部の赤く光る奴隷紋を見せてきながらマオが言う。


 なるほど。山羊悪魔が魔王がどうこう言ってたのは俺とマオが奴隷契約結んでいたからなのか。


 俺の傷が浅くマオの頬に俺と同じような傷跡が付いているのも、おそらく山羊悪魔がしてきた俺への攻撃をマオが少し肩代わりしてくれていたからなのだろう。



「……ありがとうな」

 


「き、急になんじゃ!? だから頭を撫でるなと言っておろう!」



 知らぬ間に守ってくれていたマオの頭をもう一度撫でてやると、口では嫌がりながらも今度は俺の手を弾く気は無いようだ。

 

 

「……とりあえず、ご主人様は無事そうでなによりだよ。でも見た感じマオちゃんと同じ傷跡があるみたいだし、簡単な治療はボクがするね」



 救急箱を持ってきたアリスにリビングへと連れていかれると、せっせと治療が始められる。


 消毒が染みて痛かったが、ヒナの見ている手前叫ぶわけにもいかず、我慢する他ない。



「あたしはもう限界…………寝るわね…………」



「お、おう。おやすみレイン」



 レインは山羊悪魔との戦闘で相当疲弊したのだろう。


 おやすみを言い終えるとあくびをしながら部屋へと戻っていく。


 アリスの治療の手際はとても早く、痛かったのも最初だけで治療の手はすぐに柔らかいものへと変わっていく。


 鼻歌混じりに治療してくれるその手は実に心地よく



「ふんふふ〜ん、よし! 終わったよご主人様……ってあれっ?…………寝ちゃった……」



 随分と疲弊してしまったせいか、いつの間にか夢の世界へと誘われていた

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