第37話

第37話



「レン。これはどういうことかしら?」



先日、春の城西祭も無事に終了し、平日だが振替休日となっている今日の日。



「ちょっと、レン聞いてるの?」



普段ならなかなか味わうことの出来ない平日の休みを十分に堪能しようと早起きをする。



「ねぇ、レンってば」



休みの日に早起きするという行為は決して愚行などでは無い。



「......」



なぜなら、早起きは三文の徳ということわざもあるように、早起きをするといいことが沢山待っているのだ。


そう、例えば......



「レン、これはどういう事なのか説明しなさい!」



金髪碧眼美少女に見下されながら説教される、などだ













時は遡り数十分前ーー



「レン、起きなさい。今日は朝から一緒に出かける約束でしょ?」



「うーん、あと5分.......」



「ダメよ。レンの「あと5分」は1時間以上だってヒナちゃんが言ってたもの。はぁ、無理やりにでもこの布団からひん剥くしかないようね......えいっ.......、ってなんでコイツと一緒に寝てるの?」



「......? 何言ってんだ? 昨日はレイン居なかったから一人で寝てたぞ......ん?」



昨晩はレインとマオが一緒に寝ていたため、今の俺のベッドに潜り込んで来ている生き物は居ないはずだ。


なのになんなんだ、この妙に温かい上に柔らかくて、抱きしめると安心するような感触は.......


しかも触るたびに妙に色っぽい吐息のようなものまでも聞こえてくる


その正体を探ろうと、目は閉じたまま、手探りでその全体像を把握しようとする



「ひゃあっ、ん、もう、ご主人様? 巨乳の女の子には興奮しないんじゃなかったの? それとも、ボクの魅力にやっと気づいてくれたかな?」



「......ん?」



その完食の正体が一体何なのか、確かめるためにアマゾンの奥地へと向かう前に、目を開け確かめようとすると、一番に目に入ってきたのは......



「おはよ、ご主人様。 朝のご奉仕もボクに任せて!」



「任せないわよ! 昨日の今日で一体ナニしてるのよ!?」



俺と向かいあわせになりながら横になっていたアリスのきゃぴっとしたスマイルと、レインの鬼のような形相だった。








と、いうことがあり現在ーー




「レン。これはどういうことかしら?」



「ご、誤解です......まじで」



「ご主人様を叱らないであげて、レインちゃん。誰も見ていない隙にこっそりご主人様のベットに忍び込んだのはボクだから」



「はぁ.......まぁ、アリスがそう言ってるならそうなのだろうけど、釈然としないわね。それにアリスは、その、あたしよりもむ、胸が大きいから......レンは誘惑されちゃったらほいほいついていっちゃいそうで心配よ」



レインはアリスと自分の胸を見比べ、しょんぼりとしながら言ってくる


だが、その点については何も心配することは無い



「あ、それなら心配しなくてもいいと思うよ〜」



「.......?」



アリスは俺の癖を昨晩知ることになったため、その辺についての理解度が高いし早い。


流石は宇宙一のメイドを自称するだけはある


きょとんとするレインにアリスは一言



「ご主人様は胸の小さい子にしか興奮できないんだよ!」



「できないんです」



「......ッ!? やっぱりレンは変態だわ!?」



「あれっ!?」



紳士なはずの俺はレインからの突然の変態扱いに驚きを隠せなかったが、アリスに笑われながらも朝の件はレインを何とか納得させることが出来た











「レンって胸の小さい子女性が好きだったのね」



「あぁ、言ってなかったが全くその通りなんだ。おかけで中学の頃はロリコンだの特殊性癖だの散々言われたもんだ。」



懐かしい淡くて青かった青春の思い出、などではなく、中学の頃から相も変わらずコミュ障を発症していたため、友人と呼べる者はほとんどできていなかった。

仲良くなったと思ったヤツらからも下の話になった途端、俺を異端扱いしてきたものだ。


昔のことを思い出しながら、他愛もない会話をレインと交わしながら2人で歩く。

レインと2人で手を繋いだまま歩くのも最初の頃に比べだいぶ慣れてきた。


最初の頃こそはレインの目立つ容姿や顔も相まって、並んで歩いているだけでかなり周りから注目されていたが、周囲の人も見慣れたのか、誰からもひそひそ話などはされなくなった。



「嬉しいような、嬉しくないような.......ね、ねぇ、レン。一応聞いておくけれど、あたしにプロポーズしてくれたのは、あたしの胸が小さいからってだけの理由じゃないわよね?」



レインは若干顔を引きつらせながらも聞くまでもない疑問を問いかけてくる


俺は胸が小さい女性に片っ端からプロポーズする変態だとでも思われているのだろうか。

いくら俺だからってそんな節操のない男だと見くびらないで欲しい。



「そんなわけないだろ、そんな節操のない男に見えるか? 俺が」



「そ、そうね。少し失礼だったかもしれないわ、ごめんなさい。そのことを理解した上でなのだけれど、真相はどうなのかしら?」



俺は不安そうな顔をするレインを安心させるような穏やかな笑みを浮かべ、



「当然、理想的なバストだったから、とかでは、ない、よ......?」



「やっぱりレンはあたしのおっぱいにしか興味ないんだわ!! うわーん!」



せっかく2人で歩いていても目立たなくなってきた頃なのに、大声を出し周囲の注目を一斉に浴びながらレインが俺に泣きついてきた!








「レ、レイン。俺がプロポーズしたのは本当に胸が理由じゃないって。レインがレインだったからプロポーズしたんだ。最初会った時にも言ったように俺の理想全てを詰め込んだキャラがレインなんだ。だ、だからさ、そろそろ泣き止んでくれよ。周りの人からの視線が痛い......」



「うぅ、ぐすっ......本当に?」



「あぁ、誓って本当だよ」



「......信用出来ない」



泣きはじめの時よりもだいぶ落ち着いてきたが、未だべそべそしているレインは俺の言葉を信じてくれない。



「どうしたら信じてくれる? 確かにさっきは言葉が詰まっちゃったけど今言ったことに嘘偽りはないよ、マオの魔眼に見てもらってもいい。そうしたら信用できるか?」



周囲の人の視線に耐えつつ、レインを宥める。

俺の問いかけにレインは黙ったままだ。


そろそろ何か言葉を発してくれないと周りの視線とこの静寂の中で恥ずかしくて息絶えそうだ


俺の願いが通じたのか、レインはそっと口を開くと



「.......じゃあ、キスして」



「.......は? お前、こんな目立つ場所でできるわけないだろ」



「なら、信用出来ないわ」




.......コイツめんどくせぇ!


もういっそのこと置いていってしまおうか。


思わず立ち上がる俺をまだ潤んだままの瞳でレインが見つめてくる



.......



なんで俺はレインの見た目をこんなにも俺のどストライク設定にしてしまったのだろう


そんな目で見られたらもうやるしか無いじゃないか



「......わかったよ。嫌だったら避けろよ」



「ーッ、嫌じゃ、ないわよ」



俺は意を決して、周囲の人に見られる中、しゃがんでレインの顔に近づく。

至近距離で見るレインの顔は、何度観ても惚れ惚れとするほどの美少女で


俺はレインの唇に目をやり、そこへ自分の唇を合わせようと、再び顔を近づけ始め......



「お兄ちゃん〜、忘れ物ですよ.......って、あー!! こんな朝っぱらから道のど真ん中でなんてハレンチなことをしてるのですか!?」



「「!?」」



忘れ物を届けに来たヒナに、3度目となるはずだったキスを防がれてしまった






「こ、これは違うんだヒナ! 俺はレインに強制的にやられて......」



「ーーッ! レン、ちょっと待ちなさい! いや、違くはないのだけれど! 本当にちょっと待ちなさい!」



「レインさん、いくらお兄ちゃんの奥さんだからって無理やりは許されないですよ......?」



「ち、ち違ーーッ!いや、ほぼ合っているのだけれど、ここに至るまでに複雑な事情が噛み合わさって.......」



「言い訳はしなくていいです! こんな朝っぱらから目立つ場所でお兄ちゃんがキスなんて人に見られながら出来るはずないです! よってレインさんに有罪判決を下します!」



「勝訴!!」



「な、なんでこうなるのよー!」



ヒナが俺の首に掛けた勝訴の紙を高く掲げ、最高の休日のスタートを切ったのだった

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