☕外レ聖女の魔装具珈琲店

喜友 方山

第1話 朝の開店時間です

 とある国の、とある田舎街の、少し離れたとある一角に、とある一軒の街カフェがありました。


「カップよし! コーヒーよし! さあ、今日も開店しましょう!」


 お店前の道を掃除していると、道行く人が女主人に挨拶を交わしていきます。


「リリアーナ、おはよう!」

「おはようございます。帰りにでも寄ってくださいね!」


「おはようございます!リリアーナさん。美味しいの出来ましたよ!」

「おはようございます。ジャガイモあったら入れてくださいね」


「リリアーナあ、いってきまあす!」

「おはよう! 宿題はやれたの?」

「今から、先生に叱られに行くとこだよ!」


 いろんなことがある世の中、それでも今日は楽しく頑張ろうという人たちに、リリアーナも支えられているようです。



 ここのお店をまだリリアーナが譲り受ける前、古いただの魔道具屋だった頃は、リリアーナは聖女として神殿に仕えていた過去があります。

 周りには聖女として聖なる力を宿す者が出る中、リリアーナに聖なる力と名乗れるほどのものが宿ることはありませんでした。



「神様は違う道を歩んだほうがいいと啓示しているのかもしれません。ここを出ても立派に生きられることでしょう」


 リリアーナは見放された絶望と同時にわかりました。

 優しく言ってるけど、落ちこぼれだとわかれば早く出て行ってほしいんだろうな、新しい人を次々と入れたほうがいいと判断したんだろうなと。

 また、リリアーナ自身の聖力とは反発する別の力を持つ特異体質もあったかもしれません。



 神殿で過ごした時間が無駄だったかといえばそうではなく、人としての教育や礼儀作法などは厳しく教えてもらったことは、今後も無駄にはなりません。

 また、聖力としては芽が出なかったものの、ほんの少しだけ特別な力を賜ったかもしれないという自覚はあるようです。

 たとえば、コーヒー豆を気分良くさせて、美味しいコーヒーが淹れられるとかね。


 神殿を追い出されて絶望の淵で次のことを考えていた矢先、魔道具屋の店主から声をかけられました。

 その店主は自身の年齢のことも考えて、このお店を引き継いでくれる人を探している、やってみないかと。


 レンガ造りの建物の屋根から木の扉近くにかけて、上からツタが張っている趣のある雰囲気がリリアーナのお気に入りのようです。




 カフェとして開店してからは、とても賑わいのあるお店へと変わりました。

 

 少しウソをつきました。じつは、午前中から夕方まではそんなに忙しくないのです。

 午前中は、みなさんお仕事に向かう方とかが多く、忙しいのかもしれませんね。


 ですが時折、午前中に来るお客さんもいらっしゃいます。

 午前中はゆっくりした時間と、元々聖女ということあり、時に相談されることもあります。


 また、小さいころから機械を触るのが好きだったこともあり、自身の特異体質から魔道具の精密な操作や魔道具の力への介入も出来る得意技があります。


 お店が元々魔道具屋だったこともあり、動かなくなった魔道具の修理や調整のため、持ち込まれることも少なくありません。

 聖女としての経験も手伝って、魔道具の修理ではいつのまにか右に出るものはいないくらいの腕前になっていたようです。

 お店にも、いろいろな魔道具を展示、販売しています。




「おはよう、リリアーナ。今日も可愛いね!」


 おや、今来たのは、ゼフィルという名の、リリアーナにお熱の男性ですね。

 おとなりのもう一人の若い女性を案内しているようです。


「本当のこと言っても、何も出ません」


 ゼフィルは、リリアーナの返しに驚き、自身の片腕をポンポンと叩き、


「また腕、上げたねぇ♪」

 と、嬉しそうです。



 ゼフィルは、元々は辺境伯家に仕える一流の錬金術師でした。教会とも折り合いよく、リリアーナのことを知ったのも、そういった経緯があります。


 しかし、ゼフィルも辺境伯家を勘当され追い出された青年です。


 錬金をするのに、等価交換として一番効率が良いのは、『水』だそうです。

 命を生み、人を育み、渇きを潤し、実りを豊かにする。


 ここの周辺の土地は、決して水が豊かではありません。


 しかし、私欲に眩んだ辺境伯家が、錬金術師にさらに欲を満たすように言えば、それは貴重な水を対価として捧げなければなりません。

 町の商店は栄える一方、水の不足に困る田畑が増え、農村は瘦せ細る一方です。


 インフレに振れ物価の上がる町の商店と、貧しさから脱せない村の農村のバランスを考えれば、今以上の錬金はやめたほうがいいと進言したら、追い出されたとのことです。



 リリアーナの特異体質に目を付け、店を閉じようとしていた古い魔道具屋とを結びつけたのはゼフィルでした。

 魔道具の修理に長け、美味しいコーヒーを淹れられるなら、魔道具カフェを開けば、一石二鳥というわけです。


 ここのお店を開けられたのもゼフィルの助言があったので、リリアーナもゼフィルを邪険にできないようです。



 いつしか、修理や相談者の助言はリリアーナがするものの、魔道具の仕入れ販売や修理の口利きはゼフィルが頼まれることも増えてきました。



「ゼフィルさん、そのお連れの方は?」

「え? 気になる?」

「いやいや、勘違いは顔だけにしてください」



「ふふ、仲がよろしいんですのね。うらやましいです」

 案内をされた女性は、ニコリとほほ笑んでいます。


 ゼフィルとリリアーナは顔を見合わせます。ゼフィルだけはうれしそうですが。



「リリアーナさんに見ていただきたいと思いまして。こちらなのですが・・・」


 その女性はポケットから、ある魔道具を取り出しました。

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