第34話 消える青行燈
やっぱりそうだ。
清美さんの話だと、昔青行燈は、清美さんの病気を治すつもりではいたらしい。
それはつまり、清美さんのお父さんが考えた、百物語の最後のひとつを語った人の願いを叶えるって部分まで現実にしたってこと。なら、七不思議の最後のひとつを語った人の願いを叶えるってのも、現実にしてくれる。ううん。現実にしなきゃならないんだ。
ならばと、私は願いを口にする。
「消えて! あなたも、あなたが現実にした七不思議も、全部まとめていなくなって!」
すると、青行燈ははっきりわかるくらい顔を歪めながら、抵抗するように言ってくる。
「いいのか? 私が消えれば他の怪異も消える。そやつも、一緒に消えることになるぞ」
「────っ!」
青行燈の視線の先にいたのは、清美さんだ。
そうだ。清美さんも、今は七不思議のひとつで、青行燈の力でこの世に現れたもの。
青行燈が消えれば、清美さんだって消えてしまう。
「それは……」
ずっと病気で苦しんでいた清美さん。命を落とした後、こうして再び現れて、だけどこのままじゃすぐに消えてしまう。そんなの、あまりに悲しすぎるんじゃないか。
そう思うと、言葉につまる。だけどそこで、その清美さんが、意を決したように言う。
「構わないわ。父が私のためにしたことで、たくさんの人を犠牲にした。この世に現れたのだって、自分の意思じゃない。このまま消えてしまっても、望むところよ」
「でも……」
「お願い。もう終わりにしたいの。死んでからも続く、あいつとの因縁を」
覚悟を決めた、清美さんの言葉。それはやっぱり悲しくて、彼女も一緒に消えてしまうなんて、やっぱり嫌だと思った。
だけど、他に方法がないなら、そして、清美さんがここまで言っているのなら、できないなんて言えなかった。だから、私も清美さんのように覚悟を決める。
「消えて、青行燈!」
もう一度、願いを叫ぶ。するとそのとたん、目の前にいる青行燈の姿が揺らめいた。
ううん。青行燈だけじゃない。周りにあるもの全てが、まるで陽炎のようにグニャリと歪んで、形を保てなくなっていく。
「この世界も七不思議のひとつだから、形を保てなくなっているんだ」
辺りを見回しながら、蓮が呟く。同じく七不思議のひとつである影の怪物も、みるみるうちに形が崩れていく。そしてもちろん、清美さんもそうだ。
「清美さん!」
こうなるのはわかってた。それでも、消えていく清美さんの姿を見ると、やっぱり胸が苦しくなる。私も蓮も、何度も叫ぶように清美さんの名前を呼ぶ。
「これでいいの。ようやく、青行灯の呪縛から逃れられる。あなたたちのおかげよ」
そう言った清美さんに、消えてしまうことへの悲壮感はまるでなく、その表情はどこか晴れやかにも見えた。
「二人とも、本当にありがとう」
それが、最後の言葉だった。清美さんの姿は完全に消えてなくなり、いつの間にか周りは、青白い光があるだけの、何もない空間に変わっていた。
そこにいるのは、私と蓮。それに、青行灯はまだ、かろうじて姿を保っていた。
だけど、それもきっと時間の問題だ。徐々に色をなくしていき、今にも消えそうになっている。
「たかが人間と侮っていたが、まさかこんなところでしてやられるとは」
今の彼女は落ち着いていて、消えてしまうのを完全に受け入れているようだった。
その様子を見ながら、蓮が尋ねる。
「お前は、このまま消えてなくなるのか? もう二度と現れないのか?」
だけど、青行燈はそれに答えてはくれなかった。うっすらと笑みを浮かべ、「さあ、どうなるかの?」と言っただけで、あとは何も言わずに消えていく。
怒りも恨み言も口にすることなく、まるで最初からそこには何もなかったみたいに、青行燈の姿は完全に消えてしまった。
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