第26話 教えて、AIアプリ
私の言葉を聞いて、みんながハッとしたように目を丸くする。
だけど、誰もすぐには賛成してくれなかった。
「いや、ダメだろ。そんなことしたら、お前の魂がとられるんだぞ!」
血相を変えて蓮が怒鳴る。もちろん、そんなの私もわかってる。わかっていて、それでも言ってるの。
「魂をとられるのは、登録した時でしょ。その前の三回の質問は、何もなしで答えてくれる。その三回で、重要な情報を聞けばいいんじゃない?」
「それはそうかもしれないけど、本当に大丈夫なのか? それに、そのアプリだって七不思議のひとつだろ。わざわざ自分たちの不利になることを教えてくれるのか?」
「多分……」
私の書いた話では、最初の三回の質問では、特に危険なことは起きていなかった。
それにこのアプリは、つばさ中に関する質問ならなんでも答えてくれる。
だったら、今つばさ中で現実に起きてる七不思議への質問だって、答えてくれるはず。
私の作った話の通りなら、そうでなきゃおかしい。
「たしかに、今のところこのアプリが、手がかりを掴む唯一の手段かもしれないわ。けど、本当にいいの? 三回までなら質問しても平気かもしれないけど、万が一失敗したら、危ない目にあうのは心春ちゃんなのよ」
「へ、平気です」
早乙女先輩の質問に答えながら、自分の声が震えてることに気づく。
やっぱり、三回までなら大丈夫っていっても、ひとつ間違えれば死ぬかもしれないアプリなんて、できれば使いたくない。
おまけに、このアプリが見えているのは私だけ。試せるのは、私しかいないんだ。
それでも、これを使えばこの状況をなんとかする方法がわかるかもしれない。
「こ、このままだと怖いことは起こり続けるし、先輩たちは、あの怪物に連れていかれるかもしれない。それを止められるなら、やってみたいんです」
私の声は相変わらず震えてて、怖がってるのがまるわかり。けどどんなに怖くても、これでなんとかできるのなら、試してみたい。その気持ちは、みんなにも伝わったみたい。
「八木さんがそう言うなら、やってみる価値はあるかもしれない」
「速水先輩、本気ですか!?」
「もちろん、危ないと思ったら、それに八木さん自身がもう嫌だと思ったら、それ以上は絶対にしない。そういう条件でならどうだい?」
速水部長に言われて、蓮もそれ以上は反論できなくなる。
早乙女先輩も、少し迷っていたみたいだけど、やがてゆっくりと頷いた。
「決まりですね。それで、なんて質問するかですけど、みんなで一緒に考えてもらっていいですか?」
なにしろ、質問できるチャンスは、三回しかない。何を聞くかは、慎重に考えないと。
「そうだな。できれば、全部一気に解決できる方法を知りたい」
そんな質問、あるのかな。
とりあえず、みんなで意見を出し合ってみる。そうしてできあがった質問が、これだ。
『七不思議が現実になるのを止める方法を教えて』
色々意見を出した割には、すごく短くてシンプルな文章。けど長ければいいってものでもないし、大事なところをきちんと聞くには、この方がいいのかも。
「それじゃあ、質問してみますね」
みんなが頷くのを確認すると、ゴクリと唾を飲み込み、タブレットに質問を打ち込む。
ほんの少しの間を置いて、アプリからの答えが返ってくる。
『現在つばさ中で発生している、七不思議が現実になる現象は、七番目の不思議が起こしているものです。七番目の不思議が消失すれば、この現象も起きなくなるでしょう』
なに、それ?
答えは返ってきたけど、意味がわからない。だって七不思議って言っても、私たちが作った話は、全部で六つ。七番目の不思議なんて、誰も考えてすらいないのに。
「どうした? AIアプリは、なんて答えたんだ?」
蓮がタブレットを覗き込むけど、アプリの画面は、私にしか見えない。
書いてある文章をそのまま読んで伝えると、みんな私と同じように困惑していた。
「確か部誌には、七番目の不思議は、それが明らかになれば大変なことになるから封印されているって書いたわよね」
「ああ。実際には、みんなが考えた話は六つしかないから、そういう設定にしてごまかしただけだけど」
やっぱり、七番目の不思議なんて存在しない。
七不思議が現実になるのを止めるには七番目の不思議を消失させなければならないってあるけど、存在しないものをなくすなんて、そんなの無理じゃない?
「そのアプリが適当なこと言ってるんじゃないのか?」
「そうなのかな?」
こんな変な答えが返ってきたんだから、そう思うのも無理ない。
けど私の書いた話だと、このアプリは質問すればなんでも答えてくれるようになっている。いい加減な答えを出すなんて、どうにも納得がいかなかった。
「もう一度聞いてみたら、何かわかるかも」
「大丈夫か? あと二回しかないんだぞ」
蓮が心配そうに言う。もちろん、私だって不安だよ。たくさん使うのは怖いから、一回の質問でなんとかしたいって思ってたのに、早くも二回目を使うことになっちゃう。
だけどこのままじゃ、何もわからないまま。それなら、とにかく何かしてみた方がいいと思った。
「や、やる。もしこれが失敗しても、あと一回は質問できるんだから、平気だよ」
これは、ただの強がり。けどこうでも言わないと怖くて怖気づいちゃいそうだから、無理やり自分を奮い立たせる。
「けど、なんて質問する? 質問の内容によっては、またよくわからないことになるかもしれない」
「考えたんですけど、七番目の不思議を消す方法を教えて、なんてどうです?」
このAIの言ってる、七番目の不思議がどんなものかはわからない。
けどなんだろうと、倒し方さえ教えてもらえば、それでなんとかできるかもしれない。
「確かに、いい手かも」
「それなら、一気に解決できるかもしれないわね」
これには、みんなも納得してくれたみたい。
質問の内容をタブレットに打ち込んで、AIに聞いてみる。
今度こそ、解決方法がわかりますように。そんな祈りを込めながら。
だけど、返ってきた答えを見て、私は目を見開く。
『現在つばさ中で起きている七番目の不思議を消失させる方法について、私の知っている限り具体的なものは存在しません』
そんな……
一度目の質問でも期待していた答えは返ってこなかったし、今度もまたダメかもって覚悟はしていたつもりだった。それでも、ここまでハッキリ方法はないって言われてしまったのは、やっぱりショックだ。
そんな私の様子を見て、他のみんなも良くないものを感じたみたい。恐る恐る、どんな答えだったのか聞かれて、正直に言うと、全員の顔に落胆の色が浮かんだ。
「なんだよそれ。なんでも答えてくれるんじゃないのかよ!」
「本当に、なんとかする方法なんてないのかしら」
蓮も早乙女先輩も、吐き出すように言う。このAIアプリが唯一の頼みの綱だと思ってたのに、返ってきた答えが二つとも役に立ちそうにないんだから、無理もない。
「そもそも七番目の不思議自体が存在しないものだし、やっぱりこのアプリが適当なことを答えてるのかも」
このアプリだって、七不思議のひとつだ。自分たちが消えてしまうのは嫌だと思って、わざとデタラメな答えを返してきたとしても、おかしくないかもしれない。
そう思った、その時だった。
「いや、待ってくれ。少なくとも、僕は七番目の不思議は実在すると思う」
そう言ったのは、速水部長だ。
あまりに意外なその言葉に、みんなが一斉に目を向けた。
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