「目撃者の探偵が来ました」

 村田はドアをノックして鼎の到着を久留島に告げる。向き直ると鼎に対して

「久しぶりだな鼎。すまんが事件が事件だからな」

 と再開を喜ぶ間もなく事件の事を鼎に説明する。

「本当か?知らなかった、この事件、報道には?」

 貴史の死を告げられた鼎は驚きを隠せない。

「署にメディアが来ていたからな。おそらく昼のニュースで流れる」

 村田は鼎が驚いた様子を見て『こいつは演技が下手だ。嘘はついてない』と安心する。

 鼎はあずまの応接室に案内される。応接室には中年の刑事、久留島と依頼人の久乃が先着しており何か話していた。

「鼎探偵事務所の横山です」

 鼎は一礼した。促されてソファに座る。

「横山さん。報告のメッセージ確認しました。全部警察の前で話しをして頂けますか」

 久乃が鼎に告げる。これで依頼人の秘密厳守の原則から開放される。どちらにせよ正式に警察から開示を求められたら回答せざるを得ないのだが……。

 久乃は先日の若々しい様子からは一転して老け込んだ。いや小さくなったように感じる。夫の死がこたえているのだろう。

「では、昨日からの流れを話してもらえますかな。早くご遺族を開放したいので包み隠さず」

 多少言葉に棘がある。まあ久留島から見れば初対面の鼎はただの胡散臭い若造だ。 

「東鶴さん。パソコンを貸して頂けますか?調査状況を撮影しているのですが、モニターが小さいので」

 鼎の言葉に久乃が立ち上がろうとするが、久留島が制止して、

「それなら捜査用のノートパソコンを使いましょう。ついでにデータを頂けると助かります」

 久乃が鼎に頷く。

「分かりました。ではこのSDカードを……」

 依頼人の許可が出たため鼎はカメラからSDカードを引き抜くとパソコンに挿入する。スライドショーモードにして鼎はマウスを手にする。

「まず今回の依頼は被害者の浮気調査です。取り敢えず午後八時から午前八時までの十二時間を一週間張り込んで調査する契約でした」

 鼎はマウスをクリックして久乃が帰宅する様子をモニターに表示する。

「これが依頼人が会社を出た時の写真です。助手席はおそらくお子さんの幸矢君です」

 鼎の言葉に久乃は頷く。

「その後は見張りを継続して一時間に三回あずまの社屋を撮影しています。自由に見てもらってかまいませんが、一時四十分の写真までは変化がありません」

「ちょっと良いか。何故一時間に三回なんだ。そのカメラならずっと動画で撮影出来そうなものだが」

 腕組みをした久留島が鼎に聞く、まだアリバイ工作の可能性を捨ててはいないようだ。

「動画で残すと都合十二時間かける七で八十四時間も動画データが出来るんですよ。依頼人がチェックするのが大変でしょ。それにそこの廊下」

 鼎が扉を指さすと、

「廊下が人感センサーになっているのですが……そろそろかな。消えた。反応してライトがついてから二十分で消えます。なので概ね二十分に一回撮影しておけばその間は人が入って来たり、貴史さんが廊下に出て来ていない事になります」

 鼎の説明に残りの三人が頷く。更に鼎は

「それで問題になるのはこれです」

 鼎は最後にみむろが撮影した写真をモニターに表示する。写真には午前一時四十九分と表示されている。一見して先程までの写真とは異なるところがあった。廊下に灯りが灯っている。

「この時間に侵入者が?」

 久留島が身を乗り出した。

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