クラリティ・ルミナリウム
2122年2月12日 16時23分
コトノハル あるユーザーの投稿文
~クラリティ・ルミナリウム:澄明なる光典『記録と透明性を信仰する文明』~
――はじめ、世界は不透明であった。
人々は互いを見ず、記録もなく、責任を知らぬままに生きていた。
ある日、災いと希望の箱が開かれ、
そこから溢れた異能は、人々に機能と責任を授けた。
機能の善き使い方に悩む人々――それは祝福であり試練であった。
やがて、恐怖は光となり、混乱は倫理を生み、記録が芽吹き、透明が息づいた。
――光は記録の言葉をもって世界を照らした。
忘却は断絶、記録は救済。
記録されぬ者は存在せず、忘れられることは死と同義である。
ホシノミヤ社、監視を司る神官なり。
その光の網は都市を包み、果実のように記録を結ぶ。
街は静かに祈り、倫理教育は洗礼となって子らに注がれる。
異能申告制度は告解、総合市民記録台帳は永遠の経典。
透明な行いは善の証、清らかなる魂の輝きである。
自由は責任と対をなす契約、責任なき自由は秩序の外へと沈む。
異能はその契約を果たす者への祝福、記録は経典として社会の記憶に刻まれる。
――監視は束縛にあらず、安寧の光なり。
ある者は己の中に潜む影を恐れ、またある者はその影を知らぬことを恐れる。
ゆえに、安寧の光は人々に寄り添い、その影を測り、善を証する。
汝、善良な市民たれ。
安寧の光は胸の奥底にひそむ澄みをすくい上げ、静かなる善の証として授ける。
その証を帯びし者にのみ、社会は安息を与える。
だが、光の届かぬ深みが消えることはない。
沈黙のなかでなお息づく闇を忘れぬよう、
人々は透明の祈りを胸に、澄明の道を歩む。
やがて、透明な善が街を満たし、硝子の眼が星空に光を放つとき、
この文明は硝子の恩寵の下に、真の楽園となるだろう――安定と幸福の名の下に。
この投稿文は、社会心理学、宗教学、文化人類学をはじめとする諸分野から、
しばしば引用の対象となってきた。
その象徴性と寓意性ゆえに議論と再解釈が繰り返され、2142年現在では、
国内SNS 《コトノハル》でもっとも参照数の多い投稿として記録されている。
2120年当時は 《監視空白地帯恐怖症》が連日メディアを賑わせていた時期でもあり、
この投稿文への過剰な共感や議論の熱量は、その世相を如実に反映していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます