第3話 決意


「……では、この国は今も平和で穏やかということですの?」


 ルリアは、集められた数人の侍女たちに、矢継ぎ早に問いかけていた。

 先ほど、思わず洗面器を弾き飛ばしてしまったことは、今となっては些細なことだ。


「はい、皇女様。現在、国内は非常に落ち着いておりますし、穏やかな日々が続いておりますよ」

「ええ、最近は近隣諸国との関係も安定していて、帝都は平和そのものです」


 どの侍女も、心底不思議そうに、そして少しばかり心配そうな表情を浮かべている。

 いつもとあまりに違うルリアの様子に、戸惑っているのだろう。

 そんな彼女たちの口から出てきた情報は、ルリアの記憶にある出来事とはあまりにかけ離れていた。

 それにルリアが先ほど皇暦を聞いた皇女専属メイド、セレスによると知っている年より十年近くも過去だった。

 

 『まさか。本当に……?』


 呼吸を整える。思考を整理する。

 この状況全てが、ルリアの記憶と一致しない。体はあの頃の、若き日のもの。


「……なるほど。感謝いたしますわ。じゃあ下がって構いませんわよ」


 侍女たちを下がらせ、ルリアは一人、静かに思考を巡らせた。

 本当に、過去に戻ったのだ。

 それも、十年程も前に。

 なぜこんなことが起きたのか、分からない。

 これは、二度目の人生。やり直しの機会。


 『あの時、私が選んだ道は、最悪の結果を招いた。だから、今度こそ、絶対』


 決意を胸に、ルリアはベッドから降りた。

 身支度を整え、朝食の準備をセレスに指示する。

 食欲はあまりなかったが、胃がきゅうと鳴る確かな空腹感を覚えていて、この身体は紛れもない現実なのだと痛感させられた。

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