第48話 愛で愛でバブみ発揮、そして—— 【♡♡有】

 杏樹の太ももは、ふかふかで温かくて頭を置くだけで全身の力が抜けていく。指先がゆっくりと俺の髪を梳き、額からこめかみにかけて、柔らかな唇が何度も触れる。


「ふふ……絋さん、すごく気持ち良さそう」


「気持ち良いに決まってるだろ。こんなの、反則だ」


「じゃあ、もっと甘やかしますね」


 囁くと同時に、頬にもキス。

 そのまま唇に触れてきたかと思えば、今度は少し深く——ゆっくりと押し広げるように舌が触れた。


「……ん」


 甘さの奥に、熱が混ざる。

 ゆっくり絡んでくる舌に、体の奥まで蕩かされそうになる。


 俺の首元まで手を回し、まるで逃がさないみたいに抱き寄せる。


「杏樹さん、バブみってこういうことじゃないだろ?」


「いいんです。赤ちゃんだって、ママにいっぱいキスされて育つんですから♡」


 言葉の意味はズレてるのに、なぜか説得力がある。また唇を奪われ息を吸う暇もないまま、重ねられるキス。


 何度も、何度も。

 重ねるたびに呼吸が熱くなっていき——


「ねぇ、絋さん」


「……ん?」


「私……絋さんに近づく女性は、誰一人許せないかも」


 膝枕のまま吐息混じりにそう告げられた瞬間、頭を撫でていた手が後頭部を包み込んだ。優しい動きのはずなのに、どこか力がこもっている。


「絋さんも私以外の女なんて必要ないですよね?」


「……お、おい」


「私がいれば、それでいいですよね……?」


 視線が絡む。

 瞳の奥に熱と一緒に濃い影が混じっている。

 膝枕の温もりも指の愛しさも変わらないのに、その圧に胸の奥がきゅっと縮まる。


 再び唇が重なり、今度は深く長く舌が絡む。呼吸も奪われて頭がぼんやりしていく。


「絋さんは私だけ見て……ずっと、ですよ……?」


 甘いはずの声が、背筋にぞくりと走る。


 ——何が正しくて、何が悪いのか。

 もう、わからない。


 ただ一つ確かなのはこの腕の中の彼女を俺は——やっぱり拒めないということだ。

 膝枕で甘やかされ続け、すっかり心も体も緩んでしまった俺は、気付けば杏樹の手を握っていた。


「……なぁ」


「はい?」


「今度は俺が攻めていい?」


 問いかけると、杏樹は一瞬だけ目を丸くし——すぐにとろんとした笑みを浮かべた。


「もちろん。たくさん、愛でて下さい♡」


 その一言に胸の奥が熱くなる。

 彼女の手を引き、そっとベッドへ移動した。



 柔らかなシーツの上、俺はゆっくりと彼女の頬を両手で包み込む。唇を重ね、浅く深く——何度も、何度も。


 やがて口づけを首筋へと移し、うなじから鎖骨へ、舌先で甘くなぞる。彼女の肌が小さく震え、吐息が熱を帯びていく。


 さらに唇を下へと滑らせ、白くて柔らかな谷間に鼻先を埋めた。


「んっ……絋さん……」


 甘い声が落ちる。そのまま抱き締めようとした、その時——


「あの……」


「ん?」


 頬をほんのり赤くしたまま、杏樹が視線を俺に向けた。


「もし今度、北見屋さん達が来たら……速攻で警察に連絡してもいいですか?」


「……は?」


 一瞬、動きが止まった。


「け、警察……?」


「はい。だって、あの人たちに関わってもいいことありませんし。何なら不法侵入で現行犯逮捕できますよね?」


「……」


 いや、待て。

 警察に通報して一番危ない立場は、俺なんじゃないだろうか?

 今はもう鳴彦の家とは縁を切ったとはいえ、過去のあれこれを掘り返されたら——想像するだけで冷や汗が出る。


 そんな俺の内心を知ってか知らずか、杏樹はにっこりと微笑んだ。


「絋さんは、私が守りますから……だから、ね?」


 頬を撫でる指先は優しいのに、その瞳の奥は一切の迷いがない。まるで——獲物を決して逃がさない捕食者のそれだ。


 俺は苦笑しながら、彼女の腰を引き寄せた。


「わかったよ。警察は……状況次第な?」


「ふふっ、はい♡」


 甘く笑うその声に、俺はもう逆らえない。

 キスを再開しながら、胸の奥で呟く。


(……やっぱ、どうにかしないといけねぇよな)


 きっと聖や莉子という妹。

 何かしてくるに違いない……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る