第9話 自分の正義

「誰だっ!?って、お前は!?」


少年は、振り向いた瞬間腰を抜かし恐れ慄いている。


そう、フードの少年の前にそいつが現れたのだ。


少年の前に立ったのは、殺されたはずの被害者の少年の姿だった。


「く、来るな!お前は、確かに俺が殺した!なんで!?」


俺は、変声機機能を使い喋る。


「お前、いつまでこんなことするんだ?」

「…」


落ち着いた口調。冷えた視線。


「こんなことをして、お前の何が救われるんだよ。俺らに対しての復讐か?」

「うるせえっ!」


少年が刃物を振り上げる。しかし、俺はそれを片手で軽く振り放った。

カツンと床に落ちるナイフの音が廃ビル内に響き渡る。


「お前の苦しみも怒りも、無視する気はない。けどな、正義って言葉を使って他人を殺す理由にはならないと俺は思う」


少年は、震えていた。


そして、震えながらも精一杯の声で少年は叫んだ。


「俺を守ったやつなんていなかった!親は俺を殴ったし、お前を含め学校のみんなは俺を無視した!先生も、見て見ぬふりだった…。『俺だから』っていう理由で。周りの大人はみんな俺を守ってはくれなかった。だから!俺は、復讐することを決意した!悪いかよ!お前に、この気持ちが分かるかよ!!」


少年は、泣きながら全力で訴えていた。


「わかってる。だから、俺が来た」


そう言って俺は、変身機能を解除しただの高校生桐島タツキに戻った。


「お前は…、誰だ!?」


俺は、少年の腕をそっと掴んだ。


「もう、これ以上自分を壊すな。自分の罪を償え」


少年は、膝から崩れ落ち小声で呟く。


「お前に、俺の辛さが分かるのかよ…。俺の何が分かるんだよ…」

「100%は分からない。でも少しは分かる。俺にもお前のように誰もいなかった」

「え…?」

「俺もある時、急に両親は死んだ。そして、帰る家も何もかも全て失った。そして、頼りにしてた恋人にも振られた。俺も本気で『どうでもいい』って思ったよ。この世界に、自分の居場所なんてないんじゃないかってね…」


ぽつぽつと言葉が溢れる。


「でも違った。どこかしらには、居場所があるんだ。俺はそう思った。空気だと思ってたそいつの存在に気づけて俺は少し息ができるようになった。だから、俺は今ここにいる」


少年は、俺をじっと見ていた。


「俺は、お前を助けたいだけだ…。こんなことを続けても壊れるだけだ。お前も、お前の中の正義も…」


少年の肩が震える。


「どうして…もっと早く来てくれなかったんだよ!」


膝から崩れ落ちた少年を俺は支えた。


「遅くなってごめん。けど、今はここにいる」


俺はぎゅっと少年の手を握った。


かつて、俺も誰かにそうして欲しかったように…。


□□□


やっべーこんな時間になっちまった!

ユイに怒られる。


俺は走ってユイの家に向かった。


ドン。


「あ、すみません」


急いでいたせいか、人にぶつかってしまった。


「いえいえ、こちらこそすまないね。ところで、泉ビル跡地ってどこかな?」


帽子を深々と被った、おじさんは俺にそう尋ねてきた。


「泉ビルの跡地ならあっちですけど、どうしたんですか?」

「ちょっと忘れ物を取りにね…それじゃあ」


あのおっさん、泉ビル跡地に何か用でもあんのか?

あんなとこ、何もないけど。

ん?なんだこれ。


おじさんは、名刺のようなものを落としていった。


『Λ 朝比奈司』


名刺にはそう書いてあった。

ラムダ?

あさひなつかさ?

まあ、いいや急ごう。

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