第3話 少し違ったいつもの日常
朝起きると、ベッドの上に制服と朝食の匂いがあった。
ああ、そうだ。
ここは俺の家じゃない…。
俺の両親はもういない…。
俺、振られたんだ…。
長い夢なら覚めてくれ。
「おーい、タツキー!ご飯冷める前に降りてこーい!」
台所からの元気な声。
ユイか。
俺の幼馴染で、この家の一人娘。
ちょっと幼さの残る丸顔で小柄で運動神経は昔から良い。
なんというか、高校生になった今でも可愛いて言葉が似合うな。
「ったく、あいつは朝から元気だな…」
リビングに降りると、テーブルの上には焼き鮭と味噌汁と玉子焼き。
ちゃんと作られてることに、なんとなく心が安らぐ。
「そういや、おじさんは?」
「お父さんなら、仕事早いからってもういないよ」
昨日のことを思い返す。
通り魔事件。
謎の男。
今も手につけている、謎の腕時計型スーツ。
あれは…夢じゃない現実だった。
俺は、もう普通の高校生じゃない…のか?
「なに?今日はやけに静かじゃん。昨日の夜泣いたのかなタツキくん?」
ユイがニヤついた顔で茶化してくる。
ちっ、コイツ、俺の気持ちも知らないで…。
「うるせぇよ。ただ、いつも通り飯は美味そうだな」
「でしょう?タツキの好きな味付けにしたんだから。ま、家賃代わりに感謝しなさいな」
「へいへい」
本当に、ユイの存在には救われいている。
でもこいつ、俺の顔ずっと見てるし何か言いたげだな。
「それで、タツキ重いんだっけ?」
突然の言葉に箸が止まった。
「う、うるせぇよ」
俺は、ご飯を一気にかけこむ。
その様子を見るユイは、俺より寂しそうというか悔しそうな顔をしていた。
俺は、少しだけ心が痛んだ。
「重かったのか…俺…」
「どうなのかな。でも、タツキはいつも真っ直ぐでさ。バカでお調子ものでちょっと不器用だけど、放っとけない」
ユイはそう言って立ち上がると、自分の食器を片付け始めた。
「ま、私はタツキのそういうところいいと思うけど…」
そう言ったユイの横顔を、俺は何も言えずに見ていた。
□□□
学校へ向かう途中、スマホを開くとニュースが目に飛び込んできた。
『正体不明のヒーロー現る!?通り魔事件の真相に迫る』
『SNSで話題!?「黒の影」、ネット民から名付けられた通称は:ヘイズ』
ヘイズね…。
ずいぶんかっこいい名前つけられてんじゃん。
しかし、もう拡散されているんだな。
俺は確かに、あの時人を救った。
しかし、あれは「正義」だったのか?
「このニュース私知ってる!謎の黒スーツのヒーロー通称ヘイズでしょ!」
「なんだよ、ユイ」
ユイは、目をキラキラさせながら語り始める。
「なんでも、電車内での通り魔を蹴り一発で倒したらしいよ。動画も拡散されてたから私保存しちゃった!かっこいいよねヘイズ」
何も言えない。
俺が、その張本人だってことは微塵も思ってないだろうこいつは…。
「正当防衛なのか知らないけど、暴力振るう奴が正義かね?」
「あータツキ、ヘイズに嫉妬してるー。自分が情けないからって」
ユイは笑いながらそう茶化す。
「うるせぇ、俺もこんな蹴りできるよ!大体、そんな暴力野郎どうでもいいよ」
「自分ができないからってー。まあ、でもタツキは昨日それどころじゃんかったもんね…ごめん」
「謝んなよ。俺が悪いだけだから…」
■■■
「この時の、俺に言ってやりたい。この時はまだ幸せだったと…」
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