第11話 予選結果発表 風のざわめき

 会場が静まり返る中、司会の声が響いた。

「これより、予選通過者10名の発表を行います!」


 その言葉に、客席も控え室も一瞬息を呑んだように静かになる。観客席で待機していたオレの鼓動が、胸の奥で鳴り響いていた。


(ニコ……)


「名前を呼ばれた方は、控え室からステージへご移動ください!」


――沈黙を破るように、名前が読み上げられていく。


「ティリア」

「ノルン」

「リフェナ」

「アーリィ」

「サディア」


 次々と名前が呼ばれ、控え室からステージへ少女たちが歩み出ていく。スポットライトに照らされた彼女たちのシルエットが、舞台を満たしていく。


(……お願い、ニコ……)


「ミルヴァ」

「ニコ」


 ………!その瞬間、空気が震えた気がした。

控え室の奥から、一歩ずつ現れるニコの姿に、オレの喉が詰まった。


ゆっくりと歩く彼女の姿は、風のようにしなやかで、何より、誇らしかった。


「カレン」

「フィーネ」

「セルナ」


これで10人。

ステージ上には、予選を通過した者たちが光に包まれて立っていた。


会場から歓声と拍手が湧き上がる。

けれどその中で、オレの耳にはただ風の音だけが残っていた。


光に包まれたステージに立つニコを見つめながら、オレは思った。

(……本当に、やったな……ニコ)


 歓声が消えていく中で、ふと静かに吹いた風が、彼女の髪飾りをわずかに揺らした。


 照明の光やレーザーが客席や空、ステージをクルクル照らした後、再びステージ中央にスポットライトが集まる。


司会者が高らかにマイクを掲げた。


「予選通過、おめでとうございます!以上の10名が、明日──中央劇場にて開催される“決勝戦”へと進出します!」


 観客席から、ひときわ大きな歓声と拍手が巻き起こる。割れんばかりの拍手。手を振る者、泣きながら叫ぶ者、立ち上がって声援を送る者もいた。


「決勝戦は、この都の最も神聖な劇場にて行われます。すべての市民に公開される、唯一の舞台──」

「そこでは、あなたたちの“真の想い”が試されます!」


ニコが小さく息を呑んだ。


「表現力、信念、そして……風との対話………

それを持つ者こそが、この天空の都の象徴として称えられるでしょう!」


 拍手の渦の中、ステージに立つ10人は、それぞれの表情で明日の戦いを見つめていた。その誰もが、“ただの通過者”ではなかった。


 控え室の空気が変わった。ついさっきまで張り詰めていた緊張がほどけ、かわりに、微妙なざわめきが広がっていた。

「通ったの……私……?」

ニコはまだ実感が湧かず、壁に貼られたスクリーンの「No.6」の文字を見つめていた。肩に手が置かれる。振り返ると、そこにはフィーネの明るい笑顔。

「ねえ、すごかったよニコ! やっぱり選ばれるって思ってたけど、実際見ると感動だね!」

「ほんと?……ありがとう」

まだ胸の奥に波紋が残る中、ミルヴァが静かに近づいてきた。

「風の流れを見ていた……あなたの動き、風と一つになっていたわ。あれは真似できない」

ニコは少し照れて、目を伏せた。

「そんな……ただ必死だっただけ、あと、風も助けてくれた。」

「でもそれが、届いたんだと思うよ。ね?」カレンが椅子に座りながら、足を組み直しつつ言った。

 ニコは周囲の様子に目を向けながら、話しやすそうな数人の参加者の話を聞いてみることにした。

リフェナ、フィーネ、アーリィ、カレン、ミルヴァこの人たちは特段に凄かった。

「ねえ、このコンテスト、決勝ってどうなるの?」アーリィが口を開いた。


「決勝は、中央劇場だよ。さらにたくさんの観客も招待されるし、踊るだけじゃなくて自己表現とか・……」ミルヴァが説明する。


「……って……バトルみたいなものなの?」


「ううん、半分はパフォーマンス、半分は“何を想い、何を伝えるか”って感じ。みんなが憧れるステージだよ。」

 その言葉に、ニコの心がわずかに揺れる。(私が……選ばれた?)

 フィーネが笑って肩をすくめた。「ま、私は出れたら満足だけどね。あとは衣装選びが勝負!」

 ミルヴァは小さくうなずいて、静かに言葉を続けた。

「誰に見られているか、何を見せるか。それだけ!」

 ニコはその言葉を反芻しながら、ふと観客席にいたタケヒの顔を思い出していた。

(……私が見せたいもの。届けたいもの。タケヒに、そしてこの空に――)


 そこへスタッフが現れ、決勝進出者に「準備説明会」への案内を伝える。控室の緊張感が、また少しだけ引き締まっていく。


……その光の外……

 ステージに立てなかった者たちは、誰にも届かぬ場所で、静かに涙を流していた。


名前を呼ばれなかった現実……。

夢を叶えるはずだった舞台が、音もなく消えていく……。


そんな沈黙の中、ふと1人が、拍手を送った。

それは震えるように、けれど確かに響いた。


「……おめでとう。でも、私たちも……よく頑張ったよ!」

 声は掠れていたけれど、誰もがその言葉にすがるように耳を傾けた。


「悔しいけど……また挑めるよね。次こそは、見せてやろう……!」


手が、また1つまた1つと叩かれる。

それは祝福であり、別れであり、立ち上がるための小さな儀式だった。


 悔し涙をか流しながらの、それが彼女たちの精一杯。


……そんなしっとりとしたムードの中で、控えめな拍手の背後から、誰かが、震える声でぽつりとつぶやいた……


「……でもさ、あの子、リオナ様が推薦したんでしょ……? いきなり出て予選通過って……。そんなの、オカシイよ?……ありえない……」


その子の目は……


風が止まった……

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