第7話 女帝リオナとその思惑
「……まず、お名前を、聞いてもよろしいかしら?」
ものすごい圧倒的なオーラに、後退りした。その動きはとても優雅だった。
「オ、オ、じゃなくて、わ、わたくしは、……タケヒ。こっちは──」
「……!ニ、ニコと申します。」
「覚えておくわ。私は天空の都の女帝、
リオナ。」
リオナ様はふたりを見つめ、そして静かに言葉を続けた。
「タケヒさん、ニコさん……あなた達には、不思議な風の流れを感じるの。どちらからいらしたのですか?」
タケヒは胸元の結晶を意識した。リオナ様はそれを見ていないはずなのに、何かを感じ取っていた。
「えっと……、オレたちは……」
「……まぁ、いいわ。上手く言えないけれど、あなたの周囲には、揺らぎのようなものが見えるの。風の結晶と、どこか似ていて……」と、目に光が灯る。
目をパチパチさせてお互いを見たオレたちに、リオナ様は、ハッとなり、
「ごめんなさい、変なことを言ったわね。でも……祭りの最中に、あなたたちに会えたこと、偶然とは思えない……」
少しの沈黙のあと、リオナ様は優雅に踵を返しかけたが、何か思い出したかのように、ニコに振り返った。
「そうだわ……。今日の午後、”麗しの風華選抜コンテスト”があるの。もしよかったら……あなた、出てみない?」
「えっ、え? わ、私が!?」
ニコは顔を真っ赤にして、肩をすくめて後ずさるように驚いたが、リオナはにっこりと微笑んだ。
「風に選ばれし者は、いつでも風と共に舞える。さっき、あなたの後ろに青白い何かが見えたわ……。きっと、あなたも——。実は今日のコンテスト、1人欠員が出てるの。ですから、是非。」
リオナ様が手を軽く振ると、すぐにパレード列の横から一人の人物が現れた。
白と銀を基調とした衣装を纏い、柔らかな印象の青年だ。
「この者が、コンテストの管理をしている責任者よ。」
青年は軽く一礼した。
「わたくしはセイルと申します。予選の開始まで、ニコ様はこちらでお預かりいたします。タケヒ様、今はどうか、パレードをお楽しみください。」
「青白い何か?…え、え!?ちょ、ちょっと待ってタケヒ!?本当に出ることになっちゃってる!?」
「……リオナ様に言われたんなら、出るしかないんじゃないかな?オレも良いと思うよ。」
「もう、どうしよう〜っ」
ニコが顔を真っ赤にして慌てる横で、セイルは、一歩後ろに控えたまま、静かにリオナ様の方へ目を向けた。
リオナ様はその様子を満足げに見届けると、
「そのまま出場しても納得できる結果はでないでしょうから、その者に付いて行って少しお稽古してもらいなさい。あなたならすぐに成果が出ることでしょう……」
リオナ様は手でセイル指しながらそう言うと、空へと舞い上がり、パレード車の上段にひらりと降り立ち、玉座に腰を下ろし脚を組んだ。
そして、何も言わずに振り返ることもなく、手を挙げると、行進の列とともに再び遠ざかっていった。その姿はまさに女帝だった。
その時ニコが、何か言いかけたがリオナには届かなかった。
しばらくの静寂の後、思い出したかのように音楽が流れ始め、人々のざわめきと視線がオレたちに降りかかる。
ちょっと……、めちゃくちゃ目立っちゃってるよ。
するとニコは、「……ねえ、リオナ様は……なんで…?それと、あの視線。」
「……ああ、気のせいじゃなかったんだな。」
「うん…胸がざわっとした。……あの目……ただの視線じゃなかった。」
「確かに、女帝がこれだけの人の中でオレたちを気にかけるなんて、まるで“何か”を探しているようだった……」
そしてオレは、静かに尋ねた。
「ニコ、さっきリオナ様を呼び止めようとしてたよね?」
「……うん。リオナ様、すごく綺麗だったし、気品もあったけど、どこか普通の人で寂しそうで不安を抱えているようだった。だから、もっと話してみたかったのかも……」
ニコはふっと笑う。「でも…変だよね。そんなの分かるはずない……何たって相手は女帝リオナ様だよ?」
「…でも、ニコは、多分そういう所に鋭いんだな……。きっとまた、会えるよ。」
「うん。風と結晶が導いてくれるよね……?私たちがここに存在し始めた理由もあるのかも……。」
ふたりはそっと白い塔を見上げ、その胸に確かな予感を刻んでいた。
パレード隊は行ってしまったが、
…誰?
…何?
…え?どういうこと?
そんな声がまだ、オレたちの周りをぐるぐる回っていた。
そこに、馬車が到着し、セイルが、
「お待たせいたしました。では、ニコ様、参りましょうか」……と言って青年は、ニコをエスコートした。
馬車の扉が開かれ、青年が恭しく一礼する。
「では、ニコ様、どうぞ。」
「……あ、はい…」
少し不安そうな顔をしたニコが、ふとこちらを振り返った。
「ねえ、タケヒ……やっぱり、緊張してきた」
オレはニコの手を取って、にやりと笑った。
「そりゃ、するよ……でも、大丈夫。ニコならできる。」
「え……?」
「昨日の夜、風と花火を一緒に見たじゃん。あの風、ニコに似てた。ふわっとしてて、あったかくて、ちょっと天然で。そして今朝からのオレたちの変化も、何かの偶然とは思えない。」
ニコはふっと笑ったあと、「天然、それは余計。」と、そっと視線を下げる。
「……じゃあ、信じて、行ってくるね。」
「うん。頑張って!」
ニコは胸に手を当て、小さく深呼吸をした。そして、青年のエスコートを受けて、馬車に乗り込んだ。
馬車がゆっくりと動き出す。窓の向こうから、ニコが手を振ってくる。
オレはそれに手を振り返しながら、
心の中で、強く願っていた——。
『大丈夫!ニコならできる!どうかニコが、自分の風を見つけられますように』
「……行ってくるね」
そう言って、ニコは笑っていた。それはいつもの、少し照れたような笑顔だったのに――
窓の向こうで手を振るニコの姿が、少しずつ遠ざかっていく。
ほんの数日前までは、こんな世界の存在すら知らなかった。今日、実物の彼女とちゃんと話してから、まだ一日にも満たない。
なのに――
胸の奥が、ひどく、ざわついた。
ポケットの中の小さな結晶が、指先に触れる。その感触はかすかに震えていて、
まるでオレの気持ちを映すみたいだった。
今日、初めて会ったばかりなのに。
なのに、なぜか。
……遠くへ行ってしまう気がした。……もう、戻れない場所へ向かってしまっているような気がした。
(リオナ様の意図は何かあるのか?)
そう考えながら、オレは見知らぬ街で一人ぼっちになったことに気が付いた……。
(オレも、何か動かなければ!)
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