『異世界転生トリプルブッキング!?俺、誰に転生すりゃいいんだよ!』

漣 

第1話 目覚めたら、3つの人生!?

夜のコンビニ帰り。カップ麺とからあげ棒を握りしめた俺は、平和そのものだった。


 そして、次の瞬間――自販機に轢かれた。


「は、あ?」


 いやいや、待て。自販機って、動かねえだろ普通。


 でも確かに俺は見た。ガコッと音を立てて歩道からせり上がった真っ赤なコーラの自販機が、光をまといながら猛スピードでこっちに突っ込んでくるところを。


 最期の思考は「なんでやねん」だった。


 気がつくと、そこは白い空間だった。ありがちな「死後の世界」風だ。


 足元はふわふわの雲。空には虹。甘ったるいシャンプーみたいな匂いが鼻をくすぐる。


「……え、これって……?」


「はいはーい! 死にましたー! おつかれさまでしたー☆」


 頭上から飛び降りてきたのは、金髪巻き髪ツインテールのポンコツ女神だった。手にはタブレット、服装は……え、なんでスウェット?


「初めまして〜! 担当神のミルミルで〜す♡ よろしくね〜♡」


 圧がすごい。スナックのチーママに挨拶された気分だ。


「え、あの……俺、死んだんですか?」


「YES! 正確には、【異世界転生予約者第748249番】佐久間ゆうた様でございますね〜!」


「予約した覚えねぇ!」


「うん、それね、人生のバグみたいなもん!」


 バグってなんだよ。


「でねでね、ゆうたくん、あなたはもともと三つの異世界に、それぞれ別の役割で転生する予定だったんだけど……」


「……だけど?」


「ちょっとデータ管理間違えちゃって〜♡ 魂、3分割しそびれたの♡」


 女神は舌をぺろっと出して笑った。お前それ笑っていいやつじゃねえだろ。


「なので今回は、1つの魂で3つの世界を“時間帯ごと”にプレイしてくださ〜い♡」


「は?」


「まず、昼は勇者ユウとして“リグナ=アース”という魔王と戦う中世ファンタジー世界に滞在してもらいます!」


「えっ、王道……?」


「夕方からは“ロゼリーヌ学園”という乙女ゲームの世界に、悪役令嬢ユリエール・サクマリアとして参加!」


「悪役令嬢!? なんで女!?」


「んで、朝方は“マッスルヘブン”っていうギャグバトル世界で、パンイチ筋肉魔法ヒーロー“サクママン”として戦ってもらいまーす♡」


「人格ぶっ壊れるだろそれぇぇええええ!!」


「ちなみに、各世界では“その人格が唯一の正体”ってことで補正かけておくから、他人からは全部『普通の人』に見えてまーす♡」


「補正って便利だな!? ていうか、統合は? 俺、どうなるの!?」


「だいじょぶだいじょぶ☆ 人格バグっても、それはそれで“個性”ってことで♡」


 ふざけてんのか、この神。


 俺の顔が引きつってるのを見ても、女神ミルミルはまったく悪びれた様子もなく、手元のタブレットを操作する。


「んじゃ、転送、ポチッと♡」


 世界がぐるん、と回る。


 目を開けた。


 そこは、草原の真ん中だった。


「……勇者さまっ!! しっかりしてっ!!」


 目の前には、ピンク髪のツンデレ剣士(テンプレ)と、妙に怪しい神官と、でっかい袋を抱えた盗賊少女。


 そして手には、でかい剣。


「うわ、始まってる!? ていうか、勇者ってマジで俺かよ!!」


「敵襲よ! 魔王軍が来たわっ!」


「無理無理無理! 魔王とか聞いてない!! いや聞いたけど! 心の準備ができてない!!」


「勇者さま……私たちにお力を!」


 キラキラした目で見つめられる。


 こっちの覚悟なんてお構いなしに、剣を構えるツンデレ。神官が祈りを始める。盗賊がにやりと笑った。


 ――ああ、クソッ、ここから地獄が始まる。


 俺は大剣を握りしめた。手が震える。


「……って、え、なにこの重さ。女の子には持てないだろ、こんな……」


 言いかけて、自分でゾッとする。


 出た。人格バグ。

 すでに“ユリエールお嬢様”が顔を出しかけてやがる。


「く、くるなぁぁぁああああああ!!!」


 叫びながら、俺は突っ込んだ。

 いやもうどうにでもなれ。


 ――そしてこの時、俺はまだ知らなかった。


 このあと、もっと狂った世界が待っていることを。


魔王軍との初戦は、結論から言えばギリギリ勝った。


 いや、俺は何もしてない。気がついたら、剣が飛んでいって敵の顔面にクリティカルヒットしてたし、ツンデレ剣士が「信じてた……」とか言って勝手に感動してた。神官は敵を回復してたし、盗賊はポーション盗んで逃げてた。


 まさに混沌。世界観ぐちゃぐちゃ。


 けど、一つだけ確信したことがある。


「……これ、全部ひとりで処理すんのか?」


 死んだらまた女神出てきて「ごめん☆」で済まされるんだろうな、と。未来に希望はない。


 初日の勇者世界を終えると、頭の奥がぐらりと揺れた。


「――あれ?」


 視界が暗転し、次に目を開けた瞬間、俺はフリフリのドレスを着ていた。


 真紅のシルクに、金糸の縁取り。スカートは広がっていて、鏡の中にはどう見ても美女がいた。


「……誰だお前。」


 いや、わかってる。これ、俺だ。ユリエール・サクマリア。女神が言っていた悪役令嬢。


 長い金髪、紫の瞳、そして天性のウザそうな高笑い顔。


「オーッホッホッホ♡ って、なんで笑ってんだ俺ぇぇええ!」


 意図せず脳内で発動する“令嬢テンプレ”に全身の細胞が震える。ツラい。


 場所は学園の舞踏会。貴族の子息たちが列をなし、俺――ユリエールに「ダンスを一曲」などと迫ってくる。


 俺の中身、完全に男なのに。


「あなたの瞳は、まるで宝石のように――」


「その台詞、昨日も三人に言ってたでしょ。」


「……っ」


 さすが悪役令嬢。口が悪い。テンプレセリフが口を突いて出てくる。


 しかもなぜか場の空気が凍りつき、王子っぽいイケメンがこっちを見ている。


「……ユリエール。君の言葉はいつも棘がある。でも、そこがまた魅力的だ。」


「はあぁ?」


 なぜ好感度が上がる? どこに惚れる要素が?


 この人格、操作が難しい。たまに勇者の記憶が混じって、ドレスのまま剣を構えそうになるし、逆に筋肉世界のボイスが喉の奥で暴れ出す。


「……私の名は……ユ、ユリエール・サクマリアッ、ふんぬッ!!」


 耐えろ、俺。絶対にサクママンになるな。


 けれど、夜が深まるにつれ意識がまた引きずり込まれていく。いや、朝が来る。


 そして、俺は目を開けた。


「おはようマッスルヘブン!!」


 ――パンツ一丁で、雲の上だった。


 周囲には筋肉男たち。マッチョ、ゴリマッチョ、スーパーマッチョ。胸筋がしゃべっている。


「サクママン! 今日の魔法筋トレメニューを!」


「OKだッ!! まずは――胸筋爆裂クロスブリッジからだァァアアア!!!」


 俺の口が勝手に動く。いやもう、何これ。人格の統合どころか、崩壊しかけてる。


「明日は“魔筋王”とのタイマンだ!」


「了解だァァアア!!!」


 叫びながらバーベルを空へぶん投げる。空に「筋」の文字が浮かぶ。ギャグ世界すごい。


 ――でも俺は確信していた。


 このままでは、人格が壊れる。


 昼は勇者、夜は令嬢、朝は筋肉。これを3日も続ければ、自我の境界が溶ける。


 だが、女神ミルミルは言っていた。


「全部こなせば、世界が“ひとつ”になるんだよ♡」


 そう、“全部”を乗り越えれば、ひとつになれる――はずだ。


「やるしかねぇな……」


 筋肉を震わせながら、俺は夜明けの空に誓った。

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