第三章 §8 「陽は傾き、灯がともる」 その3
朝日が部屋の窓から差し込み、古びた木製の机に微かに煌めく反射を落としていた。
レイは椅子に深く腰掛け、昨日手に入れた銀のブレスレットを静かに解体していた。
精密な工具を使い、結晶構造を傷つけないように慎重に外装を開いていく。
露わになった魔力結晶と刻印構造に、微かな魔素が流れ込む。
その瞬間、回路全体がかすかに発光し始めた。
(やはり、多重術式……構造は三重層でそれぞれが独立している)
まず第一層、《視界補助〈ヴァイジング・センサー〉》。光量の少ない環境でも視界を自動調整する補正系術式。
次に第二層、《魔力痕跡追跡符〈マナ・トレース〉》。
魔力の残留反応を感知し、地形や物質の中からでも揺らぎを浮かび上がらせる。
そして第三層、《術式解析ログ〈グリフ・スキャン〉》。
対象となる術式の構造を記録し、術式解析に用いる知識情報の断片を自動保存する機能。
ここまでが昨夜、店主が口にした「三重の術式」だった。
レイは視線をブレスレットに戻し、詠唱を始める。
「――
魔力の揺らぎが周囲に薄く広がり、ブレスレットの表面から微細な痕跡が浮かび上がる。 淡い光の残滓が、術式の接続点を縁取るように漂っていた。
「次は……
視界に現れたのは、魔具に刻まれた簡易的な符術構文。
まだ情報は断片的だ。
だが、その“並び”から、複雑な魔術式の存在が感じられた。
「
言語化された術式情報が浮かび上がり、
「
レイの視界には、魔法式全体の構造が現れた。
そして
それでも、そこには“歯抜け”のような空間があった。情報の断絶――不自然な空白だ。
(……ここで途切れている? いや…違うな。構造が隠されている)
レイはわずかに息を吐き、これまで試したことのない術式を、即席で頭の中で描いた。
第六位階。未だ実戦投入していない領域。
「――
術式が起動した瞬間、空気が一変する。
魔力が強く渦巻き、視界の中心に“閉ざされていた層”がゆっくりと解き放たれていく。
重ねられた結晶層の裏から、新たな術式が姿を現した。
「……これが、第四層」
そこにあったのは《精神結界遮断〈マインド・シールドカット〉》。
精神操作、念話干渉、幻覚誘導――あらゆる精神系魔法に対して、
感知と遮断を同時に行う術式構造。
しかも、それは他の術式とは連動していない独立構造で、
術式情報が意図的に“視認されない”ように覆い隠されていた。
(これほどまでの隠匿…店主も気づいていなかったはずだ。
構造的にも、術式発動の連鎖から完全に切り離されている)
それは、意図的に誰かが“仕込んだ”防衛層。
あるいは、ブレスレットの本来の用途を考えると――敵対的環境で使う、
諜報用装備だった可能性すらある。
「……こういうものを“使う側”になるとはな」
皮肉混じりに呟いたレイは、術式構造を視界から消し去り、
ブレスレットを再び組み立て直した。
見た目はただの銀の装飾品。
しかし、その内に秘められた術式は、帝国で市販されるどんな魔道具よりも緻密で、
実用性に富んでいた。
指先でブレスレットの細工をなぞり、緊張を解く為か一度立ち上がる。
(本当に重要なのは、これをどう使うかだ……)
次なる工程――自らの手による最適化と、安全な再構築が、今日から始まる。
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