第15話 ゾルト王子〜ドタバタ探偵

 ゾルト王子は頭に来ていたが、やるべきことは他にあると言い聞かせた。押し込み強盗に入られた商人の屋敷や倉庫から消えたものを探さなければならないし、犯人は一人や二人ではないのだからどこかにヒントがあるはずだ。


「くそったれが!屋敷を監視しておけ!」


 ゾルトはメンキルの屋敷を訪ねた。街にくるときは、よくキンメルの豪華な店は訪れるが、屋敷に来たことは少ない。店の豪華さに比べると、意外に質素だなと思っていた。

 ゾルトは王宮とも比べた。全体には華やかさはあるが、一流どころであつらえられた王宮のものとは、どこかしら劣る。たださきほどのくそ忌々しい娘がいるところなどよりいい。

 召使長が現れ、客間に通された。高級なお茶でもてなされた。まだ高飛車な顔が焼きついていた。恰幅のいい主が現れた。迎えるためにわざわざ高級で失礼のない服に着替えたらしい。


「申し訳ございません。くつろいだ格好をしていまして着替えるのに」

「気にせんでもいいのに。知らない顔でもない」

「なおさらです。ゾルト様、お兄様やお姉様にひいきにしていただいております商人、身だしなみくらいは整えておりませんと」

「私は制服だ。忙しいのか?」

「昨日の今日のことですから。昨夜から朝方まで会合が開かれまして。で、しばらくは自警団も雇うことにしたのです」

「我々が信じられんと?」

「滅相もない」


 メンキルは確かに王室で珍しいものを持ってきては品評会をしていた。下級の召使いが買えるものから上級召使い、仕える貴族、王室までと数も品も揃えているので、彼が来る日は普段は舞踏会の催される部屋は市場になる。


「警察も信じられてないのだな」

「そういうわけでは。商人街はここだけではございませんからな。警察の手を煩わせるのはという結論でした。しかし衛兵まで来ていただけるとわかっていれば」

「扉は固い方がいい」

「そう仰っていただければ」

「引っ越した連中もいたようだ」

「何軒かいるようですね。ま、今回の件で今はここがもっとも安全ですが」

「リオン商会の屋敷を訪ねたが、小生意気な娘と召使いの二人しかいなかった。他は今朝のうちに引っ越したらしい。嫌味を言われた」

「リオン商会リオン商会」

「おまえなど知らんほど貧乏商人だ」


 何としてもあの高慢な態度の彼女に跪かせてやりたい。そのためにも今回のことは我が手で解決してやると思っていた。街の治安のことなどではなく、もはや彼女への挑戦だ。


「強盗に入られた屋敷は、ここでは申しにくいのですが、悪どいことをしていたとは聞いていましてね。あちこちで戦利品や呪具など集めていたとかです。卑しい品も多いとか」

「それはそれで裁かれねばならんが、強盗していいことにはならん。私は許さない。集めるばかりでは意味がなかろう。売れたのか」

「さすがに私は存じ上げないのですが」

「普段おまえたちや彼らは宝など商品は屋敷の地下にでも片付けておくものなのか?」

「基本どうしてもというものは自宅をいちばんにしてます。舶来や量が多いなどは倉庫に預けているものもございますが」

「例えばカネは?金貨や銀貨だ」

「屋敷ですかね。地下金庫です。もちろんいくつか拠点にわけていますが」

「今回カネは盗まれたようだ。一点ものと言われるものはわからん」


 ゾルトは紅茶を飲んだ。 


「見てもいいか?」

「今からでございますか」

「マズイことでもあるのか」


 キンメルは構わないが、実際に金貨には近づけないことを話しながら案内した。何重もの扉を開いて、地下へ行き、松明に火をつけると鉄格子で閉ざされた部屋が現れた。


「このように箱に入っているのです」

「魔法などの結界は?」

「もちろん施してございます」

「どこも同じようなものか?」

「おそらくは」


 ☆☆☆☆☆☆☆

 ズミは姿を消してはいるが、魔法防御に備えてメンキルの屋敷に忍び込んだ。昔いちばん緊張したのは敵の本拠地に近付いたときだ。防御が凄すぎて遠巻きにしか見ることができなく逃げ帰った苦い思い出がある。

 足を踏み入れようとしてやめた。精霊がいるのか?この嫌なザラつきは。ほんのわずかに違和感がある。地下に隠してあるのか。


「わたしでも破れるのかな?」


 やめておいて身を翻した。かつて主は「万が一のときは、逃げられるときは逃げる」と話してくれた。期待はしているが、失いたくはないと言われた。だから命も賭けられた。今の彼女はどうなのかななど考えながら離れた。


 

 焼け焦げた屋敷へ忍び込んだ。建物自体は体裁を保っているが、内部の木製品や布製はことごとく焼け落ちていた。人の焼けた臭いというものは良いものではない。

 魔法防御が生きていた。新鮮だ。なるほどねと上機嫌になった。警官の抜けて、焼け焦げた残骸の下に埋もれた階段を降りた。鉄格子の扉は開いていて、室内の箱ごと消えていた。

 石積みの壁を撫でてみた。

 青い点々が見えた。精霊の臭いがする。悪臭だ。上に人がいるし、魔法使いの考えを合わせると派手に暴れるわけにはいかない。他の精霊をやりすごして現場から離れることにした。

 痕跡を追いかけた。これでは犬だなと思った。自警団がたむろしている。余計に治安が悪い。いちばんいいのは自衛することだ。誰も信じないで、己の力のみで守ること。


「守っててるのか襲おうとしてるのか」


 しかし尾行が鬱陶しい。精霊か?違う臭いもする。キンメルもやたらと手広くしているようだなと思った。路地から屋根に跳んだ。姿を消したにも関わらず、後ろから矢のようなものが放たれて仰け反る喉をかすめた。


『向こうに知られたくはないんだ。暗黒街の奪い合いをするなら別だがね』


 クロウの言うことに委ねた。何をしたいのかはわからないが、ズミは倒せそうな奴てまはえるものの、クロウの言うように背後関係もわからない今は逃げることにしておいた。


 いつか会えるか?

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆

 ゾルト王子はリオン商会を例に出してボルグ街から引っ越す商人は多いのかと尋ねた。


「小さな商人やよそから来ているものは商工会を頼れませんからな。リオン商会……」

「どうかしたか?」

「さきほどから考えていましてね。たしか以前商売に失敗したと聞いて夜逃げしたと聞いたような気もしまして」

「ちゃんといたぞ」

「名前だけ買うこともありますから」

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