第26話 エリシア聖教の聖女様

《エリシア聖教 大聖堂》


カラン~!カラン~!カラン~!


 大聖堂の大鐘楼がお昼の訪れを告げる音が響き渡っています。


 ここはわたくしが所属しているエリシア聖教の総本山。エリシア大聖堂です。


 本日は5日前に起きたアレイス学園での魔神の件で呼ばれたのですが……


「お帰りなさいませ! 我等が天使……いや違う。聖女シエル様。復唱せよっ!」

「「「お帰りなさいませ! 我等が天使……いや違う。聖女シエル様 お帰りなさいませ! 我等が天使……いや違う。聖女シエル様」」」


「アホ共!! 誰が〖いや違う〗まで真似て復唱しろと言った!」


「「「アホ共!! 誰が〖いや違う〗まだ真似て復唱しろと言った!」」」


「だから復唱を止めよ!」


「「「だから復唱は止めよ!」」」


「……あ、あのイヴァンお爺様。先程から何をなさっておられるのですか?」


「おお、我が可愛い孫。シエルよ。良く来た。良く来た。さあさあ、おいで。今日のシエルの帰省の為にシエルの好物だったオレジンパイを焼いたのじゃ」


「「「おお、我が可愛い孫……」」」


「ええぃ! 聖歌隊はもう復唱を止めよおぉ! さっさと城下町に行き。テレンシア王国兵達と町の巡回に行って来い!」


「出たぞ。イヴァン司祭様の叫び」

シエル様と一緒に過ごす時間を邪魔されたくないだけだろう」

「相変わらずの孫馬鹿よね」


 聖歌隊の方々がヒソヒソと何かを喋っていますがなんでしょうか?


「いいからさっさと行って来い! ワシの親友テレンシア王から直々の願いなんだぞ」


「王族と教会がズブズブってどうなんだ?」

「イヴァン司祭様はあんな怖そうな顔でも誰とでも仲良くなれるからな。仕方ない」

「昔はテレンシア王と城下町で遊び歩いてたそうよ。不良よね~」


 お爺様。完全に舐められています。こんなお姿見たくありませんでしたね。


「……ワシ個人から小遣いをやるから城下町の治安部隊に合流して来い。アリシア様が不在の今、お前達がこの王都を守るのだ」


「「「はっ! 畏まりました。イヴァン司祭様! 行って参ります」」」


 聖歌隊の方々は一斉に教会から飛び出して行きました。やる気にみちみちています。


「ふぅー、毎回毎回小遣いやらんとやる気出さん信徒がどこにおるか。アホ共が」


「……イヴァンお爺様」


「おお! シエル済まんな。見苦しい所を見せてしもうた。さぁ、ワシの部屋へと向かうとしよう。最近のお主の話を聞かせておくれ」


「……はい。イヴァンお爺様」


《イヴァン司祭の部屋》


「シエルと最後に会ったのは魔竜討伐でのパーティー以来かな?」

《エリシア聖教大司教 イヴァン・バレンタイン》


「……そうですね。私も旅を終えた後色々ありましたので、お爺様とはなかなかお会い出来ませんでした」


 イヴァン大司教様はわたくしの実のお爺様です。


 世界各地の国々で国教と定められているエリシア教のトップとして、永年に渡りエリシア教会を発展させて来た凄いお方なのです。


 そして、バレンタイン一族の家長でもあります。お家の事はお婆様に丸投げらしいですが……


「そうかそうか……シエルの師であるアリシア様からは、家での様子を聞いていたりしたんじゃかのう。元気そうでなによりじゃ」


「……はい。アリシアお義母様からは色々な家事を教わっておりますわ……スパルタです。聖女しゅぎょうの時とは違い。お義母さ……お師匠様はとても厳しいです」


「ハハハ! アリシア様はワシのシュリルに似て昔から完璧主義じゃからな。仕方あるまい」


 イヴァンお爺様の妻。シュリル・バレンタイン。つまり私のお婆様に当たる方ですね。


 元聖女でアリシアお義母さんを聖女として育て上げたお方です。つまり私のお師匠様のお師匠様ですね……ややこしいです。


「……はい。ですがやらかした時は竜族ディアさん、エルフ《シンシア》さん、聖獣スピンさん、夢魔ダリアさんもご一緒に怒られますので安心です。アリシアお義母さんの怒りが五等ずんに分散されますので」


「何? もしやシエルとアリシア様以外にも一緒に住んでいる者達がおるのか? それは皆、女性なのか?」


「はい。それとレイン様も一緒です」


「ほう。レインちゃんと言う娘もおるのか。女性ばかりで楽しそうじゃのう」


 …………? レインちゃん? あれ? イヴァンお爺様。何か勘違いなされておりませんか?


「……い、いいえ。レイン様は女性ではなく。私の旦那様……」


 私がレイン様の事をお爺様に話そうとした瞬間。執務室の扉をノックする音が聴こえて来ました。


 コンコンッ!


「む? なんじゃ。孫と水入らずの時に……誰じゃ?」


ガチャッ!


「失礼致します。イヴァン司祭様と……おぉ! シエル様もご一緒でしたか」


「……貴方はホルマン様」


「おおおぉ! 聖女シエル様。お久しぶりでございますー! なんとなんと……これ程までにお美しいご成長なされるとは。まるで始まりの聖女エリシア様の様にお美しいですぞぉ!」


 聖職者の服装を着た長身の男性が扉を開けて入って来ました。


 たしかこの方は数年前にエリシア教に入信したホルマン・エレマーンさんと言う方ですね。


「……ホルマンか。何じゃ? 何か急ぎの用事でもあったのかのう?」


「おっと失礼致しました。イヴァン大司教様。貴方様のお孫様であらせられるシエル様があまりにも美しく見惚れてしまいまして」


「そうか。それよりも要件は何じゃ? 早く言え」


 普段温厚なお爺様がイライラしておりますね? ホルマンさんとはあまり仲良くないのでしょうか?


「はい。イヴァン大司教様……『暗闇の教団』が今夜、王都内で動くそうです。それと連動するかの様に『嵐の稲妻テンペスト』という組織も」


「……どこから仕入れた情報じゃ? 信用出来るのか?」


「えぇ! それはもう! セグア情報屋からの頂いた情報ですので確実かと」


「……セグアの?……『暗闇の教団』の目的は?」


「はい~! テレンシア美術館にある。《エリシアの指輪》との事です!」


「何? エリシア様の指輪じゃと?!……聖騎士達を至急召集しろ。テレンシア美術館の警護にあたれとな」


「キヒッ! 畏まりました。イヴァン大司教様~、それでは聖女シエル様。また後程お会いしましょう」


バタンッ!


 ホルマンさんはそう告げると何故か嬉しそうに部屋から出ていってしまいました。


「おのれ。ホルマンめ。ワシの孫娘に色目を使いおって……多額の寄付金がなければあやつなどとうに追い出しているものを……聖騎士長カリアめ」


「……あ、あのお爺様。大丈夫ですか? なんだかお疲れの様子ですが?」


「お、おお! 済まん済まん。シエルよ。何の心配いらんぞ。さあ、お主の為に夜は王都でも有数な高級レストランを予約しておる。その間はゆっくりと大聖堂で過ごしておってくれ。ハハハ」


 ……イヴァンお爺様は何故か不自然に笑いながら私の質問をはぐらかしたのでした。


 

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