閑話休題、の十二(こんなふうにすこし蒸し暑い日)

 騒がしい愚弟が帰った。人のベッドに上裸で寝て、振り返りもしないでバスに乗り込んで、挙句その後の第一声が感謝じゃなくバスの座席の話。同じ腹から生まれて、同じ空間で十数年暮らしたとは思えない奔放さ。離れてしばらく経ったので改めて実感した。コイツは底なしの(もしくはそこの抜けた?)バカである。愛すべきバカである。私のときにはさほど何も言ってこなかった母がしきりに連絡がなんだと私に送ってきたのも頷ける。

 さて、帰りの池袋で久方ぶりに土砂降りに降られた。五分ほど雨宿りしたけれど、雨足の弱まった頃合に急に待つのがまどるっこしくなって、思い立ったように雨の中を駆け出したりもした。昨日どうせびしょ濡れになったし、このあと誰にも会わないし、という魂胆である。心の底で誰かに会ったら面白いかな、なんて思ったりしたけれどそんなことはなかったりもした。いつもいつも、「この角から知っている顔が飛び出してきたら」を夢想している。ただなんたって一度だってそうなったことはない。世界は今日も広い。エスカレータにぼーっと乗っていても前の人には追い付けない。ちなみにそれとこれにはあんまり関係がない。

 ともあれ髪とシャツを濡らしながら帰ってきた私である。今日はすこぶる蒸し暑かった。からりと晴れていた先週の晴れ間すら既に恋しい。梅雨の到来に嫌な顔をしながら、ただまあ、楽しかったな、と思っている。人間、すこしぐらいばかなほうがからりとしていて気持が好い。とはいえだが。とはいえ、なのだが。

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