第33話 婚約発表はするのですか?(2)
「私を懲らしめるとは、同じ列車に載せることですね?でも、私は「魔力」供給が絶たれていないわ。聖ケスナータリマーガレット第一女子学院はセントラルハイゲート地域魔術博物館の配達区域ではないわ。もしも、私が列車事故で死んだならば、クリスは私と結婚できず、ガトバン伯爵の資産を手にいれるチャンスを棒に振るわ……」
――大事なことよ、思い出して……。メイドのソフィアが変だと気づいたのは事故の前日だわ。魔力供給馬車から受け取ったとしてソフィアが箱を持ってきたわ。その時に、魔力供給馬車はメイドには渡さなかったから変だと思ったのよ……。
「君は事故に遭っても死なない程度に魔力の供給を受けた……クリスは事故にあった君に偽りの愛を誓って結婚して……うわっ考えただけでもゾッとする……」
アルベルト王太子は青ざめて首を振った。私の手を握り、口を硬く結んだ顔は近寄り難いほどの冷たさをはらんでいた。
「その後、財産を手に入れるためにお父様と私を殺すのね。不正に遺言を書き換えるぐらいいはやりそうだわ」
私とアルベルト王太子は、セントラルハイゲート地域魔術博物館の配達台帳を馬車の中で見比べた。
「16人もセントラルハイゲート地域魔術博物館の配達台帳の中で配達対象となっている」
「つまり、列車事故で亡くなった王位継承権を持つ人たちは、事故の起きる少し前の3月の初めから既に魔力の供給が絶たれていたとなるのね……」
「あぁ、知らずに『偽物の魔力』を配達されていたんだ。でも、どうやってそんなものを誤魔化せたんだ?」
「箱詰めを行う魔力箱詰虫は『魔力』だと疑わずに箱詰めをしたということになるわ」
「そうなるな……」
アルベルト王太子のブルーの瞳が燃えるような炎を宿した。
――怒っているのね……。
魔力を供給するには、魔力箱詰虫と呼ばれる特殊な虫を使って箱詰めする。虫と言っても、機械仕掛けのモノで強力な魔力がかけられている。
購買元からの集金は、配達時に直接行われる。配達人は集金を行うが、集めたお金は必ず集配所に戻るように設計されている。魔力の力で配達人と魔力配達馬車をコントロールしているのだ。
「誰かが魔力箱詰虫に細工をしたことになるわ。闇の魔術のような闇堕ちした魔術を使わない限り無理な話だわ……」
馬車はちょうどトケーズ川にかかる橋を渡っていた。今日のトケーズ川には霧のようなモヤがかかっていて、トケーズの街特有の光景を見ることができた。
――大きな川?
――鉱山開発……オズボーン公爵家の話では、鉱物は取れたが、一般利用には難しい鉱物だったのが失敗の原因……。
――国境境にある小さな漁村の村……。
――温泉保養施設のために大金を投じてわざわざ温泉を掘った……。
――何かが私の頭の中で引っかかる……。でも、それが何なのかわからない。
「ねえ、あの魔力の塊をどこに隠したのかしら?」
「わからない。でも、魔力の塊があれば、ディーアにしかしかできないような信じられないようなことができるかもしれない……だってディアーナは死の砂漠にブランドン公爵家の別宅を移動させて俺から逃げたぐらいだから……」
アルベルト王太子はまた無意識に元婚約者のブランドン公爵令嬢の話をした。
「振られた方のお話を本当によくなさいますね……強い魔力を操れるダークな貴公子が影にいるとか……?」
「あっ!」
アルベルト王太子は真っ青になった。ブルーの瞳を見開いて何かを思い出したような表情になり、私を恐る恐る見つめた。
――なんでしょう?
「正直にいうよ。今年の2月のことなんだが、歯医者にいたら、いきなりエミリー・ブレンジャーが現れたんだ。そして、ディアーナが諦められないなら、闇堕ちすればディアーナを手に入れられると俺に言ったんだ。もちろん断ったよ!」
「……まだエミリーに会っているのですか……?」
私の声は低くなり、王太子から身を離すために思わず数インチ座席を移動した。
――まだ会っているとしたら、私はもう心がもたない……!
「会っていない!ディアーナが俺の前から逃げるように去った日以来、一度も会っていなかった。そしてその歯医者に急に現れて以来、一度も会っていない」
――良かった……。
私は泣きそうになった。嬉しかったから。
「あんな女性にひっかかるなんて俺はなんてバカな男だ……」
アルベルト王子は心の声が漏れて出ていることも気づかずに、ブロンドの髪の毛をかきあげながらつぶやいていた。
――えぇ、えぇ、私もクリスに引っかかるぐらいバカですけどね……。
「あなたの元婚約者のブランドン公爵令嬢ですが、とんでもない魔力の持ち主でしたよね?」
「あぁ……凄まじかった。でも、彼女は俺には隠していたんだ。振られてから気づいたことだ」
「聖ケスナータリマーガレット第一女子学院の私の先輩なのです。当時は王太子妃になると思われていたので、ブランドン公爵令嬢の研究記録が大切に保管されているのです。もっとも巨大な魔力がなければ誰も試すことのできない記録ですが……」
「そうか!」
「そうだわ!」
氷の貴公子と私は同時に気づいた。2人で手を取り合って笑顔で見つめ合った。氷の貴公子の手が私の手に絡み合い、彼は私の額に軽いキスをした。
――えっ?
こんなさりげない愛情表現に慣れていない私は、いちいち飛び上がりそうになってしまう。
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