第18話 新たな恋 アルベルト王太子Side(2)
春が近づき、いざザックリードハルトに出発する日になった。ウォーターミー駅に行った俺は、突然目の前に現れた息を切らして急いでいる女性に目を奪われた。
ピンクブロンドの髪、くるくるとよく動く茶色い瞳、誠実そうな唇。
最初は何とも思わなかったが、彼女が浮気男から逃げていると分かると、少しだけ彼女の顔をよく見つめてみたのだ。そして、なぜか俺の心が動いた。
なぜ、助けてあげたいと思ったのか分からないが、俺は彼女を助けてあげたいと思った。
「追われているんだな?」
「はい……」
「そうか。ここまで追ってきたなら、彼はきっと君を諦めないな」
「そ……そうですか」
「私も経験からわかる」
俺は彼女の置かれた苦境が理解できた。浮気がバレた時、俺は最愛の人を追いかけて行ったから。だが、その女性は誰も触れなかったことに平気で触れた。
「経験から分かるとは、ブランドン公爵令嬢のことでしょうか」
「はっ!?」
「君は……」
「大変申し訳ございませんっ!失礼なことを……」
「あぁ、君は本当に……」
浮気男から逃げているフローラと名乗る伯爵令嬢は、いとも簡単に俺の心の垣根を破った。
「乗るぞっ!」
「おいで!」
王家が貸切にした車両がある列車に、俺はフローラを誘導した。
食堂車で彼女と話している時、久しぶりに心がウキウキしてきて、目の前にいる彼女に何もかもさらけ出して話せる自分に気づいた。破局する前のディアーナにもこんなことはなかったと思う。
俺はどこかディアーナには格好つけていたところがあり、裏で隠れて最低なことをしていた。
だが、目の前に突然現れたフローラ・ガトバン伯爵令嬢には誠実でいたいと心の底から願った。彼女には変なことでも考えたことや思ったことを、正直に何もかも話せる気がした。
華やかな食堂車で周囲の目線は強烈な興味を持って、フローラを観察していた。
俺はそれを良いと思ったのだ。
――みんな、俺が彼女とデートしていると思っていいから!
――俺がそんなことを思うなんて、信じられない!
クリス・オズボーンと婚約破棄したいならば、自分が一役買うと伝えたが、本心だった。
「君が婚約解消したいなら、一役買う。ディアーナと別れてから、大勢の人に注目を浴びながら、私がレディと食事をしたのは君が初めてなんだ。多分1年ぶりぐらいだ」
その後、彼女が古物商からもらったという時計を腕にはめた直後、列車は脱線事故を起こした。
たくさんの人たちが亡くなり、目が覚めた時には621人もの人たちが亡くなったと聞かされた。フローラは車椅子に乗っていた。
途方もない結果に、俺は打ちのめされた。
結論から言うと、俺の頭の中からディアーナが消えている時間が多かった。特に時間を事故の前に巻き戻して戻ってこれた後は、ディアーナはずっと消えていると言っても良かった。
――嘘だろう?
突然周りに光が届き始めて、世界が色鮮やかに輝いて見えた。クリス・オズボーンが婚約破棄されて、俺は心底嬉しかった。
オズボーンとメイドの修羅場は、トラウマになりそうなほど最悪な修羅場だった。
修羅場の後、フローラはぐったりとしていて、俺は事件の余波が怖かったから、王宮に彼女を馬車で運んだ。
この行動が意味するところは一つだ。
ブランドン公爵令嬢ディアーナですら、王宮に運ばれて泊まる部屋を用意されたことはなかった。
――待てよ?
――俺はどうやらフローラ・ガトバン伯爵令嬢に本気のようだ。
――絶対に彼女を守りたい。守ってみせる。
――俺の方を振り向いてもらえないかもしれないが、とにかく傷ついた彼女を守り抜こう。
修羅場の後、フローラがクリスと別れることは決定的になった。俺がフローラに抱く気持ちも決定的になった。
「ディアーナのことより、君が気になるんだ」
うとうととし始めたフローラはとても愛らしかった。俺はフローラにそっと囁いた。
「氷の貴公子の異名を返上してでも、君を守り抜くよ」
思わずフローラの額にキスをした。
俺の胸によりかかってぐっすりと眠っているフローラは、心に何とも言えない温かい気持ちを与えてくれた。生き返ったような気持ちだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます