第38話


 目が覚めると白い天井が目に入った。


 体が重く痛み、顔をしかめる。



「日葵、気がついたのね。もう何か月も眠っていたのよ」



 その声とともに、視界に現れたのはお母さん。


 お母さんは涙をこぼしながら、私の頬を撫でてくれた。



「よかったわ。本当によかった」


「……かげつくんは…?」


「『かげつくん』…?」



 お母さんは驚いたように目を見開いたあと、すぐに何かをこらえるように瞼を閉じる。



「おかあさん…?」


「……日葵、今は何も考えないで休みましょう」


「私、かげつくんに会いたい。謝らないと」


「謝る?」


「華月くん、苦しそうだった。辛そうだった。私のせい。だから」


「彼のことが好きなの?」



 そう聞かれて、私はお母さんの目を見てまっすぐ答えた。



「大好きな人」


「………」


「お母さん?」


「そう、なのね」



 お母さんは複雑そうな表情をして、テレビ台の引き出しから封筒を取り出す。


 その封筒に嫌な予感がした。


 過去の記憶がよみがえり、華月くんに会えなくなるという現実がやってきそうで。



「あなたに渡してほしいと言われた手紙よ」



 お母さんに支えられて、ゆっくりと起き上がるときれいな封筒を手にする。


 宛名も差出人もない真っ白な封筒。


 その封筒から便箋を取り出せば、そこには見覚えのあるきれいな字で『思い』がつづられていた。



 ───


 気が付いたようで何より。


 俺はもうお前に会わない。


 大嫌いなお前に時間を費やしたことは無駄だったな。


 もう二度と関わらないから安心しろ。あんなこと二度と起こらないから。


 もう二度とお前なんかには会わない。


 もう二度と会いにもいかない。


 もう二度とお前に関わらないから、俺なんかを忘れて幸せな人生を歩め。


 幸せになってくれ。


 ───



 そんな言葉に涙が落ちる。


 終わった…?


 華月くんに二度と会えない…?


 そんなの嘘だ。


 そんなわけない。


 私の位置情報だって把握しているんだ。


 華月くんはいつでも私に会いに来れるはずだ。


 でも、私は…?


 私から会いに行くことなんてできるの?



「わ、たし、もう、会えないの…?」


「日葵…」


「嫌だ! そんなの嫌! 華月くんに会えないなんて生きてる意味ない!」


「そんなこと言わないで…!」


「だって華月くんがいたから私は今まで頑張ってこれたんだよ!? 今も、過去も、そばに華月くんがいてくれたから…だから、だから、頑張ってこれたのに…」



 手紙をぐしゃりと握りしめる。


 涙がボロボロとあふれ、体が痛んでも大声で泣いた。


 大好きなんだ。


 大好きだ。


 華月くん以外と幸せになれるわけがない。


 華月くんのいない人生で幸せになんかなれない。



「華月くんのそばにいたいの!」


「………日葵、そんなに彼のことが大切なの?」


「そんなの当たり前だよ! だってお父さんに殴られてあざがあっても、お風呂に入ってなくてきれいじゃなくても、華月くんはそばにいてくれたの。そんな私に触れてくれたの!」



 そんな大事な人を失うなんてできない。


 再会してしまったんだ。


 また失うなんてできるわけがない!



「ねえ日葵。彼が何者かはわかっているの?」


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