第32話


 あの日、徹くんに言われたことが頭によぎる。


『あいつ、裏社会の人間だよ』


 毎日のように何度も繰り返し思い出していた。


 そうかもしれない。と思っていたけど、そんなの関係ない。


 華月くんは華月くんだから。



「最近、大学の周りでうろついてる男の人知ってる?」


「男の人?」



 モカちゃんと更衣室で出勤準備をしていると、そんなことを聞かれた。


 私には覚えがなく、首をかしげてモカちゃんを見る。



「なんか人を探してるみたいでさ…。私も詳しくはわからないんだけど、日葵のことなんじゃないかな…って」


「私?」


「うん…。『ひまり』って名前の人を探してるみたい」


「え?」


「大学にも何人かいるみたいなんだけど、どの人も容姿が違うみたいで…。残ってる日葵が、あなただけみたいよ」



 私を探してる?


 私を探す男の人って、まさかお父さん…とか?


 いや、でも東京にいるなんて知らないはずだし、あれから行方不明だし…。



「とにかく気を付けたほうがいいかも」


「うん、ありがとう」



 もし、お父さんだったら…?


 それとも、まさか…お父さんがお金を借りていた人たちだったり…して。


 あれから逃げるように家を出てきたし、お金も全額返し終わっていない。


 それをお母さんは知らないはずだし、私の名前をあの人たちは知ってるから、もしかして私を探してるのって…。



 お母さんに相談してみたいけど、余計な心配をかけたくもない。


 もし探してる人を見かけたら、自分から声をかけたほうがいいかもしれない。


 そのほうが大ごとにならなくて済むだろうし。



 また借金を返す日々がやってくるのかな。


 またあの辛い生活がやってくるのかな。



 モカちゃんと徹くんにもバレて、それに大学もやめなくちゃいけないかもしれない。


 華月くんとも会えなくなるかもしれない。



 そんな不安を抱えながら、深呼吸をして更衣室を出た。



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