勇者戦争の遺産
第30話 勇者戦争の遺産
墓地を抜けた私たちは教会の裏口の前にいた。ドアは閉まっているのだが、鍵はかかっているのだろうか……私、開錠の魔法使えないんだよなあ……って思ってたら姫が声をかけてくれた。
「ティナ、心配するな。もし鍵がかかっていても、私がぶち破るから」
「うん。ありがと」
姫は私の事なんてお見通しなんだね。さあ、気を取り直していくぞってタイミングでドアの前に人影が浮かんできた。そいつは小柄だが半透明の影だった。
「実体がない。アストラルか?」
「そうだ。私はこの教会に封印されている悪魔……と貴様たちが呼んでいる存在だ」
「教会に悪魔が封印されてるの?」
その小柄な影は私の言葉に頷いた。そして再び私たちに向かって語りかけて来た。
「悪魔と呼ばれる前は勇者だったのだがな」
「勇者って? どういうことなの?」
「胡散臭いこの試験の裏を教えてやる。ついて来い」
その小柄なアストラルはくるりと向きを変えてからドアの中へと消えていった。姫は私の方を向き、頷いてからドアの取っ手に手をかけた。
「鍵はかかっていない」
裏口のドアを引いて姫が中へと入る。私も姫に続いた。
中は左がキッチンで右が物置となっていた。通路はそのまま奥へと続いており、先の方で例の影が私達を待っていた。
私と姫は焦ってその影を追ったのだが、影は私達を確認してから更に奥の扉へと消えた。
「何がしたいのかな?」
「勇者で悪魔……なら100年前の勇者戦争に関する事かもしれない」
「ああ、こないだ歴史で習ったよ。お隣のグラスダース王国で巨大怪獣が暴れて、私達のラグナリア皇国もその討伐に参加して……って感じのお話かな? おとぎ話みたいなんだけど」
「事実らしいぞ」
「ビンと来ない。だって、その巨大怪獣に対抗するためにグラスダースとラグナリアの連合軍が戦ったとかさ」
「その怪獣が強すぎたという話なのだろう。私だって詳しくは知らない」
だろうね。噂話に尾ひれがついて、何が本当なのかさっぱりわかんない。そもそも巨大怪獣って何なのかな? その怪獣を倒したのが勇者って事なのかな?
私と姫はその影に続いて奥のドアを開く。中へ入ったら礼拝堂だった。そこは祭壇の脇で正面に沢山のベンチが並んでおり、100人くらい入れそうな広さがあった。
その、ベンチに焼け焦げた何かが座っていて、その隣に例の小柄な影が立っていた。
姫がその影に問う。
「それは何だ?」
「抜け殻だな。中に入っていた人物が私の力を利用して幻覚やトランスポートを使っていた」
「力だと?」
「ああ、そうだよ。かつて悪魔と恐れられ、それ以前は勇者として崇められた私の力さ」
抜け殻だったのか。焼け焦げたアレが死体かと思って焦ってしまった。しかし、その中に入っていたのは誰なんだろう? 勇者選抜試験の試験官? それにそこにいる影の力を使っていた? 悪魔で勇者?
さっぱりわからないわね。
「もしかしてこの教会は、勇者戦争で討伐された怪獣を封印していたのか?」
「怪獣か……その表現は妥当かもしれない。ついて来い。面白いものを見せてやる」
その影は祭壇の中央に安置されている竜神像の後ろへと向かう。その竜神像の足元には地下へと通じる階段があり、影は躊躇なくそこを降りて行く。私と姫はその影を追った。
地下へ続く階段は真っ暗だったので、私は自分の指先に火を灯した。淡いオレンジ色の光が周囲をぼんやりと照らす。
「ティナ。便利だな」
「あはは。これ、長く使うと爪が焦げちゃうんだよね。真っ黒になっちゃう」
「それは大変だな」
姫に心配されちゃった。まあ、私はネイルにおしゃれなんてしないから関係ないんだけどね。
私たちは階段を下りて奥にある地下室に入った。その壁と天井はぼんやりと光っており、私の爪の炎は必要が無かった。その部屋の中央には一人の女性がぜえぜえと荒い息を吐きながら棺にもたれ掛かっていた。
彼女は僧侶かな。結構高齢のようで、もうおばあちゃんと言っていいだろう。白髪はあちこち黒くなって焦げていたし、羽織っている青いローブも焼け焦げて所々穴が開いている。また、皺だらけの顔や腕は火傷を負っているのか、皮膚が何カ所か赤く腫れあがっていた。
「こ……ここまで来るとは……ミリア家の小娘が」
彼女は私達を睨みつけ、しわがれた声で話す。
「お前のような大貴族がこの試験に合格するなどあってはならない」
尚もその老聖職者は私達を睨みつけるのだが、何を言っているのか意味がわからない。あの影は彼女の前に立ち、彼女をたしなめるように頭を撫でたのだ。
「色々納得がいかないと思うけどね。先にこれを見て欲しい」
影が指さしたもの。それは老聖職者がもたれかかっていた棺だった。
「開け」
影の一言で、棺の蓋はキラキラと光りながら消えてしまった。
「これが僕の正体さ」
棺の中にあったもの……それは大きな大きな手の骨だった。
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