第二十五章:告白と返事(00)
湖光祭の前夜、セルディナの桜並木が満開を迎えていた。
昼間の賑わいが過ぎ去り、宵の空に仄かな光が残る頃。
想はひとり、湖畔の小道を歩いていた。
祭りの準備は万端だった。
飾り灯籠も設置され、明日の菓子や茶の準備も整っている。
けれど、心の中には、まだひとつだけ――終わらせていない“想い”があった。
(明日、すべてが始まるなら――今夜は、ひとつ終わらせよう)
その時、背後から軽やかな足音が聞こえた。
「……想?」
振り返ると、そこには薄桃色の外衣を羽織った陽がいた。
「陽さん」
「みんなが“明日の確認しよう”って言ってたけど、あなたが居ないから……もしかして、ここにいると思って」
想は小さく笑った。
「さすがですね。……実は、ちょっとだけ、話したいことがあって」
「わたしも」
ふたりは並んで桜並木を歩き出した。
静かだった。
花びらが風に舞い、月明かりが石畳を照らしている。
想が立ち止まったのは、並木の真ん中、湖を望む場所だった。
「この村に来た最初の日、俺は“何も分からなかった”んです。言葉も、習慣も、人の距離感も……」
「でも、あなたは分かろうとしてた。すごく丁寧に」
「分かりたいって思えたのは、陽さんが“押しつけずに迎えてくれた”からです」
陽が目を見開いた。
「怖かったんです。もしかしたら、俺の存在が誰かの負担になるんじゃないかって。けれど、陽さんは俺を“共に働く仲間”として見てくれた」
一歩、近づく。
「その時間の中で、気づいたんです。俺がここにいる理由は、“選ばれたから”じゃない。“誰かと選び合うため”なんだって」
陽の瞳が、わずかに潤んだ。
「陽さん。――もし、あなたがまだ“自分のペース”で進みたいなら、俺はそれに合わせます。急がせません。でも、ただひとつ……」
想は深く息を吸い、言葉を紡いだ。
「俺と、“これからの毎日”を一緒に歩んでくれませんか」
それは、派手な言葉ではなかった。
でも、想が一年をかけて培った“人との関係を大切にする”という生き方のすべてがこもった言葉だった。
陽は、一瞬だけ目を閉じ、静かに、しかし確かに、頷いた。
「……うん。歩きたい。“想となら”って、思えるようになったから」
風がふたりの間を通り抜け、桜の花びらが一斉に舞い上がった。
どちらからともなく、一歩、近づいた。
手と手が、そっと触れ合い、そして自然に重なる。
言葉はいらなかった。
ふたりの視線と呼吸が、“これから”を語っていた。
(→End)
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