Shadow Walkers - 影渡の神々 -
よしなし つづる
霧と邂逅
第1話 弁天山古墳
小さな町の郊外に広がる田園風景。
そのただ中にぽつんと丘が残っているのを見たことはあるだろうか。
こんもりと木々に覆われた丘が、風にたなびく稲と水の
今、丘の多くは"古墳"と呼ばれている。
ろくに調査もされず、玄室さえ見つかっていないというのに何故か豪族の墳墓だとされている。
丘や周辺村落で語り継がれて来た謎めいた伝承は、近代化の波に揉まれ迷信となり、数世代前に生きたお年寄りたちとともに、この世から失われてしまった。
辛うじて親から子、子から孫へ、連綿と受け継がれて来た数少ない物語も、いつしか本質すら変容し、後世に伝えるべき事実も警告も教訓もあらかた消え失せてしまった。
何もかもが忘れ去られ、最近になって与えられた"古墳"の名前だけが残っているのは、今や日本全国どこでも普通のことなんだろう。
大きな街から程良く離れ、水田のただ中にぽつんと残る弁天山古墳も、そんな古墳の名を持つ
目の前を立派に舗装された綺麗な農道が通ってはいるが、税金の無駄遣いと
丘の高さは3m、直径7mほど。
こじんまりとしたおまんじゅう形をしており、南から伸びる石を並べただけの短い参道は、まっすぐに頂上へと続いている。
その両脇は、クヌギやナラなどの雑木がまばらに生え、放っておくと丈高い雑草に埋もれてしまうものだが、近所の住民が定期的に手入れをしているのだろう。
参道周辺はサンダルでも歩ける程度に刈り込まれている。
最奥には細い木で簡素に組まれた低い鳥居と石造りの小さな
この祠は、お稲荷さんが祀られている多くの祠と同じで、神社のような形をした屋根と観音開きの扉を備える。
中には御神体として近くの神社から戴いて来たお札が奉納されている。
しかし石の風化具合から見て祠は比較的新しく、
大きな街から離れ、街灯すら設置されていない丘周辺は、真夏少し前の季節になると南天を流れる天の川を眺めることが出来る絶好の星空スポットである。
だが深夜は、野ネズミやイタチ、ノウサギ、タヌキなど動物たちの天下であり、虫や蛙の声が響き渡る野生の楽園である。
虫たちの声は独特のリズムを持っていて、波が寄せるように高まり潮が引くように静かになる。
蝉なら蝉時雨というが、コオロギやキリギリスの場合は何というのだろうか。
古墳と呼ばれながらも祠があり、微かに残る物語の断片を持つ小さな丘。
きっと遥か昔からこの地にあるのだろう。
忘れ去られた記憶が呼び覚まされる時は来るのだろうか。
それとも新たな記憶で上書きされるのだろうか。
物語が紡がれる時、それは唐突に始まると相場が決まっている。
そう。
今夜、この時のように。
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