第13話
朝に比べてドッと疲れが増したように思えるのだが、これは気の所為なのだろうか?
俺はひとつ溜め息をついた。
時間的にも遅くて、一般家庭での高校生の門限はとうに過ぎている時刻だった。そのせいもあるのか部活帰りの中高生の姿は見えず、依然として大学生や家族連れを中心として目立っている。遠くに昼は姿を隠していたネオン街が夜の闇に反して場違いのようにライトアップされている。また、そこにも人が集まっている様子が見て取れた。
ショッピングモールの入口。
蓮が嫌味ったらしくニヤケ面を表に出し、
「じゃ、俺ら向こうの駅から乗るから礼斗。すずなちゃんをしっかり見送ってやれよ。変なやつでも現れたらお前が身代わりになるんだぞ、葬式は出てやるから」
「勝手に殺すんじゃねえよ、不謹慎だな!」
それはお前にも言えることだろ……。
、と言いたくなるのはグッと呑み込んでおこう。
「ばいばーい、すずなちゃん! 礼斗くん!」
「うん、ばいばい!」
俺たちとは乗る駅が違うらしく、そのままショッピングモールを出て、別れる形となった。
2人の後ろ姿を見送ったあと、踵を返して朝来た道を辿る。遠目に改札の方は幾分か人の混む様子が窺えた。
「……なんか、寒くないですか!?」
「少し寒いな……」
4月の終わりと言えど、夜となるとまだ冷え込みは引かないようで冷風が肌を刺す。蘭はその寒さに気がついたのか歯の隙間から息を吸うような音を立て、肌をさすり始めた。
「蘭の格好となればなおさらそうなるだろうな……ちょっと厚着しすぎたかなと思ってた俺ですら少し肌寒いし。今日の天気予報見てなかったのか? 夜は冷え込みが強くなるって」
スマートフォンの画面に映された天気予報を見せる。
「残念ながら見てません……さっき見て、あ、10℃だヤバいって気づいたところです」
「まぁ、4月は寒暖差激しい無理もないか」
「自業自得なんだからしょうがないですけどね……」
「ここは天気のせいってことにしとこう、天気はきまぐれなんだしさ」
「……ふふ、そういうことにしときます」
俺たちはクスッと笑みを零す。
異常気象は今ではもう恒例で、当たり前と根付き始めて定着しているが、受け入れるのと感情はまた別物で、その異常気象に直面すればで鬱陶しいと感じるのは至極当然のことである。
実際問題、天気というものは厄介なもので狐の嫁入り、日照り雨とかなぜか良い風に解釈する風潮があるが当事者からすればこれほど迷惑なものはない。今の季節外れの寒さも例に漏れずこれがいわゆる、天気による気まぐれを表す典型的な例ともいえるだろう。
駅まで半分くらい来た地点で、近くにコンビニを見つけた俺は寄り道するために、進行方向からズレると蘭は駅の方面を指差して言う。
「駅、向こうですよ?」
「あー、ちょっと買いたいものあるから待っといてくれないか?」
「はい? まぁ、時間もありますし全然良いですけど……?」
疑問に思いつつも、あっさりと受け入れた様子で頷いた。
「───いらっしゃいませ」
コンビニに入ると食べ物の良い匂いと共に、店員の接客が出迎える。
店内ではラジオの広告媒体が流れるのが自然と耳に入ってきた。
お目当ての物を探しに雑誌やコーナーを抜けて、
「あった、あった」
飲み物コーナーの飲料陳列棚の目の前に立った。上からエナジードリンク、炭酸飲料、そのまた次の棚にはお茶などが綺麗に陳列されている。
「アイツ……はちみつレモンが好きって言ってたっけ?」
だいぶ昔の記憶だから曖昧だけど……。
なんか、そう言っていた気がする。
缶のコーヒーやペットボトルを温めている陳列棚をひとしきり見ると財布を開き内情を確認する。
(…………なんだこれ、全然ねえ!)
俺は見るも無惨な光景に顔を歪ませた。
陳列棚の値札? には、『あったか〜い』と書いてあるけれど、それとは裏腹に生憎俺の財布の中はまったくと言っていいほど暖かそうではない。
花嶋と蓮に出会ったあといろいろと買い物を続けていたからだろう、朝までは結構あったお金が今では見る影もない。ありがたいことに、毎月親から仕送りは貰っているのだがそれだけでは心許ない気もしてくる。
「ありがとうございました。またご利用くださいませ〜」
はちみつレモンとコーヒーを手に取りレジへと向かい、会計を終えると、待たせていた彼女の元へ向かった。
「ほら」
「あ、おかえりなさ──」
蘭の頬にさっき買ってきたはちみつレモンを軽く押し当てた。
すると、「ひゃあっ……!」と声を上げて肩をびくっと震わせる。
別に冷たいものでもないからそんな驚かなくてもいいだろ……。
と、思いつつも隣に並ぶ。
「え、これって……?」
「ついでだよ、ついで! 俺だけ買ってくるのもなんか申し訳ないだろ……!」
「自分の分のお金は払いますよ!」
蘭が寒そうにしていたから買ってきたなんて言えるわけがない……。
「寒そうだから買ってきてやる」とかは図々しいし、とはいえ謙虚にいくのも俺の性にあっていない気がして照れくさいのだ。
だからこうやってさり気ない仕草に混じえて本心を誤魔化す方が、自分らしいと言えば自分らしくてよっぽどマシだと思う。
「いいよ、別に。……先輩として出しといてやるって」
「厳密に言うと、同級生ですけど……でも、ありがとうございます。私の好きな物覚えてくれてたってことも……嬉しいです」
「野暮なこというな……」
「……それでも嬉しいです!」
そう言って、微笑む表情が蛍光灯で照らされて鮮明に映し出される。
その姿はやっぱり少し眩しくて、なんだかノスタルジーに耽る。不思議と安心感を覚えさせてくれるようなそんな気がした。
※※※
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