第6話 勘違い
森に向かって歩く間、敬一も、度会も、真吾から遅れることはなかった。
まるで、従うのが当たり前のようについてくる。
真吾はちらっと度会の顔を見た。
迷いは感じられなかった。
――いやいや着いてきているんじゃないんだ。
驚きだった。
度会は覚悟を決めたように森を見て、少し前を睨みながら歩いている。
視線はぶれない。
それが内藤に対する忠誠心なのか、あるいは、もし、助けに行かなかったことが知れた場合の復讐を怖れてのことなのか……もしかすると、真吾への友情なのかは、わからなかった。
――もう、いい。
真吾にはもう、度会をいじる気持ちが失せていた。
かといって、内藤への友情を分かち合うほど、心が広くもなれなかった。
真吾は立ち止まり、度会を振り返った。
「おまえはいい。寮にいろ」
度会は緊張した顔で首を振った。
「僕だって、行くよ」
「沢内たちが、おまえをつけている可能性がある。邪魔なんだ。寮に戻れ」
手を振り上げると、度会が立ちすくんだ。
真吾は背を向け、進み始める。
しばらくして振り返ってみたが、度会は同じところに立っていた。
「よかったのか」
敬一が隣に並んだ。
「いいんだ」
真吾は唇をきつく結んだ。
度会の態度に驚いていた。
戻れと言えば、素直に戻ると思っていた。
それなのに、拒否して、行くと言った。
〝僕だって、行くよ。〟
さっきの度会の言葉が耳に蘇る。
――あいつ、ほんとうは友だちなのかもしれないぞ。
どうなんだ、と自問自答する。
すぐに、あり得ない、という答えが返ってくる。
度会を何度もばかにした。何度も小突いた。足を引っかけたこともある。
使いっ走りをさせたことも、もっとひどいことも。
――おれが度会だったら、どう、おれと付き合っただろう。
とても、今の度会のようには付き合えない。
殴りかかったかもしれない。内藤にもっと媚びて、盾にしたかもしれない。
度会は、そうしなかった。
ただ、従ったのだ。
――気の合わないやつだけど、明日からはもうちょっと優しくしよう。
「真吾、どうすればいい?」
敬一の声で我に返る。
「そうだな。木一〇本分くらいあけて着いてきてくれるか」
「わかった。斧男対策だな」
敬一が真剣な顔で聞き返した。
真吾はうなずき返す。
「斧男は、二度とも森の東側から現れた。西側に離れて、きてくれ」
外庭を横切ると、二人は森に入る。
夕方に近いころだ。
森にはろくに光も射していない。
枯れ葉の積もった緩い地面を踏みながら進んでいくと、自分の彫像が見えた。
正面に立ち、実物より少し大きなそれを見上げる。
辺りを見回し、人の気配がないか探りながら、一分待った。
二分経過。
三分経過。
だが、誰かが現れる気配はない。
「おい、とりあえずここは、何も起こらないみたいだぞ」
手を振る。
敬一が、ほっとしたような笑顔でこちらに近づいて来た。
そのときだった。
真吾は息苦しさを覚え、倒れた。
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