第11話 見えない世界の中で
ついに実行の日が来た。
『眼鏡を外して視界をぼやけさせて広井君とお話しちゃおう作戦』。
眼鏡は教室に入る前から外してある。
会話の時にいきなり眼鏡を外すのはちょっと不自然だから、授業中以外はずっと裸眼でいくことを決めていた。
ガンッ ガツッ ゴンッ
……自分の席に着くまで色々な所にぶつかりまくってしまったが。
ゴッ!
「んぐっ!」
誰かの机の角に腿をぶつけてしまい、少し蹲る。
「だ、大丈夫か?」
「あっ、は、はい。へ、平気です」
裸眼なので顔がわからないけれど誰かに心配されたようで差し出された手を遠慮なく握る。
声色と手のゴツゴツしさから男子だと分かった途端、ちょっと赤面してしまう。
「眼鏡忘れたのか? ミキテ……じゃなかった、氷室さん。席こっちだぞ」
「ん、んと……」
「……このまま誘導してやるから」
「あ、ありがとうございます」
親切な男子に誘導され、私は無事に席に着くことができた。
「た、助かりました」
「……いや、これくらい全然」
言いながらその男子は私の隣の席に腰を下ろす。
……ん? そこは広井君の席なのにどうしてこの人はそこに座っているの?
「ん~~~?」
私は身を乗り出すように近づいて彼の顔を確認する。
駄目だ、全然見えない。裸眼状態だとこんなにも見えないのか私の目。
もっと近づく。
もっと。
もっと。
……あっ、やっと見えた。うん、広井君だこれ。
いやー、こんなに近づかないと見えないとは。あはは。鼻の頭が広井君の横顔にくっついちゃった。
くっつい……ちゃってるなぁ……
「(氷室さんが広井くんに鼻でキスしてる)」
「(は、鼻キスとは珍しいものを見た。大胆だなぁ氷室さん)」
「(普通にキスしようとして先に鼻がぶつかっちゃのかな? あるある——いやないか)」
クラスメイト達の困惑がテレパシーで伝わってくるぅぅっ!
は、鼻でキスしちゃったっ!? 何鼻キスって!? 新しすぎて草なんだけど。
「(あの子は何しているのよ……いや、文字通り広井君と接触したわけだし、あれはあれでアリなのかな?)」
無しに決まっているよ席子ちゃん!
何結果オーライみたいな空気出しちゃったるの!?
「あ、わわ、わわわ、あわわわわ……」
この空気をどうしたら良いのかわからず、私は広井君に顔を近づけたまま硬直してしまった。
広井君は真顔のまま、私の肩にポンッと手を置き、そのまま優しく私を押し戻した。
ストンッと椅子に着席され、彼は何事もなかったかのように授業の準備をする。
私も心を無にし、彼に習うように授業準備を始めた。
互いにふ~~と大きなため息を漏らし——
「(ミキティがキスしてきた! ミキティが鼻でキスしてきた!? 何事!? 何が起こったんだ!? 落ち着け。冷静に状況を整理するんだ。まず眼鏡を忘れたミキティの手を引っ張って彼女の席に誘導した——って、その時点でおかしいだろ!? 何さらっと手を繋いでるんだ俺は!? そんなこと許されるわけないだろうが! 今年は話しかけないっていう誓いもなんか普通に破っていたし! ……しかし、ミキティの手、すべっすべっだったな。鼻キスされた時もちょっといい匂いしたし……って、俺は何を考えているんだああっ!!)」
やめてやめてやめてーー!
広井君と触れた手と鼻と肩が熱い。火傷でもしたかのように熱を帯びている。
「(広井君の手……大きくて暖かかった……な)」
ゴンゴンゴンゴンッ!
何を考えているんじゃ! 私は!
うわぁぁぁん! 自分の行動が恥ずかしすぎてもう死にたい。死にたいよぉぉ~!
「(面白、この二人。これからも生暖かく見守っていこ。ぷぷぷ)」
笑い事じゃないよ席子ちゃん!
広井君に変な子だと思われたぁぁっ!
今まで彼と接触できなくて何度も敗北する思いは経験したけれど……
接触したらしたで私を待っていたのは経験したことのないほどの大きな羞恥なのであった。
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