第7話 悪意の声


「だからね、聞いて、未希ちゃん」


「……むぅ」


「私は未希ちゃんと広井くんを繋ぐために彼から連絡先を聞いただけなの」


「……勝者からの哀れみは受けない」


「勝ち負けじゃないからね!? ていうか私は広井君のことはただのクラスメイトとしか思ってないからね!」


 席子ちゃんによって脳破壊をされてしまった日の夜。

 布団にかぶさって頬を膨らませている所に席子ちゃんが電話をかけてきた。


「じゃあ、何? 席子ちゃんは私の為に行動を起こしたのに、勘違いして飛び出してしまった哀れウーメンこんちきしょうだって言いたいのかな?」


「その通りだよ!? この勘違い哀れウーメンこんちきしょう!」


「その通りなの!? えっ!? それじゃあ私ただの恥ずかしい子じゃん!」


「ただの恥ずかしい子だったよもう! やっと気づいたか!?」


 てことは私ってば広井君と交流するチャンスも連絡先をゲットするチャンスも逃した上、訳の分からない絶叫を上げながら逃げ出す変な女と思われてしまったってこと!?


「お、終わった。もう学校行けない。クラスメイト全員から変な目で見られた」


 明日学校に行ったらどんな目で見られるか、想像するだけでも背筋が凍る。

 しかもテレパシー能力で皆の悪意の言葉も伝わってきてしまう。

 もう駄目だ。


「だ、大丈夫だよ! 私、クラスメイトの皆と交流広いから朝早くに教室に行ってフォロー入れておくよ。だから未希ちゃんは始業ギリギリのタイミングで登校してね」


「……苦労を掛けるね」


「ホントだよ!? もう勘違いで暴走するのは本当にやめてね!」


 いい人だった。席子ちゃん物凄くいい人だった。

 席子ちゃんが頑張ってくれるのだから私も頑張って明日は学校に行こう。

 ある程度の悪意の心の声は覚悟して。







 席子ちゃんの言う通り、私は始業ギリギリのタイミングで教室に入ることにした。

 目立たないようにゆっくりドアを開けてこっそり入室する。


「「「…………」」」


 バッチリクラスメイト全員に注目される私。

 うわ。超注目されている。

 そうだよね。昨日叫びながら教室を飛び出した女の子が居たらそりゃあ見るよ。私が皆の立場でもそうすると思うから。

 私は誰とも目を合わせないようにしてそそくさと自分の席に座った。

 だけどみんなの心の声は聞こえてきてしまう



「(氷室さん、昨日は絶叫はビックリしたなぁ。莉々の話だとちょっと勘違いがあっただけみたいだから触れないでおこうかな)」

「(物静かな印象だったけどユニークな人なのかも。莉々とも仲良いみたいだし、今度話しかけてみようかな)」

「(莉々しゃまの近くの席うらやましいですわ。氷室さんの席からなら莉々しゃまのスメルを頂けるのかしら)」



 席子ちゃんすごい。

 昨日の私の奇行が少しポジティブな感じに受け取られている。。

 フォローしてくれて本当ありがとう。


「(おっ、ミキティ今日の髪留めはBパターンか。一番好きなパターンだぜ。嗚呼。今日も佇まいが麗しい。可憐な横髪を掻き上げる仕草が本当に絵になるぜ。ていうか普通に姿勢がいいんだよなぁ。育ちの良さが伺える。いつか一緒の家に住むのなら俺も彼女を見習って姿勢正さないといけないな。あと横髪も伸ばそう。ミキティみたいに俺も華麗に髪をフッサァ~ってできる男になってみせるからな)」


「(よかった。広井君はいつも通りだ)」


 いつも通りならいつも通りで問題はあるのだけど、今はその変態性にちょっと安心感を憶えた。

 これなら普通に過ごせそうかな——



「——来た来た。絶叫疾走女」

「——あの根暗、まともにしゃべれないくせに絶叫はできるのな」

「——ていうか莉々も大変だな。根暗女のフォローまでさせられて」



 うわぁ、やっぱり悪口叩く人はいるのね。

 うんうん。そうだね。みんなの言う通りだね。陰キャなのに目立ってごめんなさい。みんなの視界に入ってごめんなさい。

 それに人気者の席子ちゃんにフォローまでさせちゃったことは私も反省しないといけない。

 私って本当に一人じゃ何もできないなぁ。


 って、アレ?

 今の心の声じゃないな。

 普通に声に出して悪口言われたのか私。

 中学の時にはなかった経験だ。

 これは結構メンタル削られ——



「——お前、今なんていった?」



 その教室中を凍り付かせるような殺気満ちた怒りの声は——


 私の隣の席から聞こえてきたのだった。

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