八月の稲田に浮かぶ月
@Dieyoungame
エピソード1:木の家
私たちの家族は、稲田が広がる静かな村に住んでいました。金色に輝く稲の海を見渡す、素朴な木造の家。夏には涼しく、冬には暖かい──そんな家が、私の穏やかな暮らしの中心でした。
窓から見える秋色に染まった田んぼは、毎日の思い出を優しく思い起こさせてくれます。
母は毎朝早く起きて、お茶を煮出しながら、そっと囲炉裏の扉を開けて、煙の香りで家中を包み、私たちを目覚めさせてくれました。
父は秋の収穫の季節になると、田んぼに手を深く差し入れ、土の湿り気を確かめるのが好きでした。
私たちの生活は、この黄金色の田んぼと、土の香り、静かな木の家の中にありました。
1999年、八月のある月夜の晩。
あの時、私は初めてアキを見かけたのです。
彼女のきらめく瞳と、静かな微笑み──それを目にした瞬間、私の心は高鳴りました。
私たちが出会ったのは、まるで田んぼのように素朴で地味なものだったかもしれません。
でも、その平凡さの中に、あまりにも深い想いが隠れていたのです。
秋の日差しがやわらかく過ぎ去ると、アキは田んぼと私を残して、学校へと戻っていきました。
私はまだ幼くて、学校に通うには早すぎる年頃でした。
田んぼの端で彼女の名前を呼び、ただじっと立ち尽くしていたあの日は、まるで昨日のことのように思えます。
そして、木の家の玄関に立ち、彼女にまた会える日を、ただ静かに待っていたのです。
この村の静けさ、木の家のぬくもり、彼女の見つめる眼差し──
それだけで、他には何もいらないような気がしました。
私たちの愛は、この黄金の田んぼで始まった静かなメロディのよう。
決して終わることのない、心の奥で静かに鳴り続ける音楽なのです。
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