第54話 マルスの死闘
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
マルスが両腕を振るい、敵を粉砕していく。
『神災』の身体から生み出された無数の異形……触手を振るい、飛びかかってくる敵をマルスはどんどん撃破していった。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
「ウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!」
「ヒギイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!」
「鬱陶しい! 消えよ!」
異形一体一体の強さはそれほどではない。
【最強】の権能を持ったマルスであれば、造作もなく倒せるような相手である。
(だが……やはり、数が多すぎる。まだ生まれるのか……!)
しかし、現在進行形で『神災』が異形を産み落としている。
巨大な軟体動物の怪物……『神災』の肉体からは今もなお異形が発生しており、数を増やすばかりだった。
幸いなのは『神災』そのものがマルスを攻撃してくる様子がないこと。
『落とし子』を生み出すことに集中しているのか、それともマルスを嬲り殺しにするためにあえて攻撃してこないのだろうか?
(どちらにしても、時間を稼ぎたい俺にとっては好都合だな。このまま、ノヴァが避難するだけの時を作らせてもらおう)
マルスの目的は『神災』に勝利することではない。あくまでもノヴァが逃がすことである。
戦いが長引くほど、ノヴァが遠くまで逃げることができる。
ノヴァだけではない。近隣の住民が避難するだけの余裕が生まれる。
(先ほど、大剣で全力の攻撃をしても武器が壊れただけ。『神災』を倒すことはできなかった……つまり、俺にこの怪物を討伐することは不可能)
マルスが冷静に彼我の実力差を考察する。
あくまでも感覚的な話であるが……『神災』の強さはかつて戦った『滅獄の魔女』と同等である。
そもそも、『滅獄の魔女』の災厄を無かったことにするために過去へ回帰。その奇跡を反転したことで生まれた存在のため、力量が拮抗しているのは道理である。
『滅獄の魔女』を討伐したのはマルスであったが……それは彼だけの実力ではない。
仲間達の援護があり、何よりも聖女が生み出した聖剣があったからこそ勝利することができたのだ。
マルスがいくら人類で最強であったとしても、女神が遣わした聖女の力がいなければその災厄を打ち倒すことは困難だった。
(いくらヴォルカン侯爵家が最強を名乗っていたとしても、それはあくまでも人間としての話。人の領分を超えた災厄の前ではここまで無力なのか……!)
「無力であったとしても、できるだけのことはさせてもらう。俺にも意地があるのでな!」
「ギャウッ……!?」
「フンッ!」
マルスの拳が異形の頭部を破壊した。
『神災』には太刀打ちできないが、生み出された異形はそれほどの強さではない。
もちろん、あくまでもマルスであればこそ倒せる相手。普通の兵士であれば、かなり手こずるような敵だった。
「これを無尽蔵に作り出すことができるのであれば、国の一つや二つ容易に滅ぼすことができるだろうな……!」
それでも、持っている力は無限ではないはず。
こうやって異形を倒していけば、多少は力を削ることができるだろう。
マルスの戦いは無駄ではない……少なくとも、彼はそう信じていた。
(すまない。最後まで君を守ってやれなかった……弱い俺を許してくれ、ノヴァ)
マルスはノヴァを想う。
できることなら、夫婦となって最後まで傍にいてやりたかった。
見届けてやりたかった……彼女が幸せになるところを。
(それがこんなところで終わりとはな……心底、後悔したい気分だ。もう二度と君の顔が見られないなんてな……)
「もう一度、君の声を聞きたかった……」
「マルス様!」
「そう……そうやって、名前を呼ばれたかった…………ハアッ!?」
聞こえるはずのない声を聞いてしまい、マルスが声を裏返らせた。
「マルス様、良かった! ご無事ですかっ!?」
ノヴァがやってきた。
何故か、見覚えのある巨狼の背中に跨って。
予想外の事態にマルスは目を剥いて愕然とし、それでも戦士の本能で手近な敵の頭部を捻り潰したのであった。
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