第40話 戦友からの手紙
使用人から話を聞き、父親から冷静になるようにと叱られて、マルスは屋敷の自室へと戻ってきた。
「クソッ……いったい、ノヴァはどこに行ってしまったのだ……!」
マルスが苛立たしげに拳を壁に叩きつけた。それなりに丈夫であるはずの壁に拳型の穴が開く。
本当は今すぐにでも屋敷を飛び出して、ノヴァのことを探しに行きたかった。
しかし、両親から止められてしまった。手がかりもなく走り回ってどうするのだと、制止されてしまったのである。
すでに領内に手配が回っている。ノヴァが行方不明になってすぐにヴォルカン侯爵領から外部に繋がる関所を封鎖。動員できる全ての人員がノヴァの捜索にあたっている。
マルスにできることはない。朗報がやってくるのを待つしかできなかった。
「だからといって、ここで座して何になるというのだ……こうしているうちにも、ノヴァの身に何かが危機が迫っているやもしれぬ……!」
二度、三度と壁を殴った。穴が増えていく。
もちろん、何度壁を殴ろうがモヤがかった気持ちが晴れることはない。
むしろ、どんどん苛立ちは募る一方だった。
「フー、フー、フウウウウウウウウウウッ……!」
獣のように断続的な呼吸を繰り返すマルスであったが……ふと、テーブルの上に置かれた手紙が目に入った。
「これは……ガリオスからの手紙か」
それは隣国であるバラセアン王国に住んでいる戦友に送った手紙だった。
戦友の名前はガリオス。バラセアン王国を拠点にして傭兵をしている。
生まれた村を『滅獄の魔女』の軍勢に滅ぼされ、将来を約束していた婚約者を失ったことにより、聖女の使徒として復讐のため戦いに参加したのだ。
ガリオスには、フランツの異常について何か知らないのか訊ねていたのだが……正直、この状況で返事をもらったところでどうなるのかという話である。
「ヌウ……このままでは埒が明かないか……」
どうせ、何もできることはないのだ。
マルスはテーブルにあった手紙を取り、乱暴な手つきで封を切る。
手紙には無骨でヘタクソな文字が躍っていた。ミミズがダンスを踊っているような文字をどうにか解読していく。
「…………何だと?」
そして……思わず、目を剥いた。
その手紙には予想を上回る内容が書かれていたのだ。
『一ヵ月前、俺のところにもフランツが来た。魔女の厄災をもう一度起こしたいから協力しろと言われた』
『もちろん、断った。ふざけるなって話だ』
『事情を尋ねたところ、フランツは王宮で冷遇されていると話していた』
『元の世界だったら世界を救った英雄だったのに、この世界では厄介者の王子として肩身の狭い思いをしている。もう耐えられないと話していた』
ここまでは、事前に調べていた内容から予想できるものだった。
フランツは第八王子で妾腹の子。それでいてバラセアン王家相伝の【結界】の権能を持っているため、微妙な立場に立たされている。
未来の世界で『滅獄の魔女』を倒していれば、英雄になることができたはず。
過去に回帰したことで、その手柄を手放してしまったことが惜しいのだろう。
(フランツの事情はわかった……だが、その先は……!)
『驚くべきことに、聖女様も厄災の繰り返しを望んでいるらしい』
『それどころか、フランツをそそのかしたのは聖女様であるとか』
『どうやら、この世界では聖女様は聖女様でなくなっているようだ』
『権能も女神の加護も失ってしまい、平凡な修道女として過ごしているとか話していた。俺は会っていないけどな』
手紙に書かれていた内容に、マルスがゴクリと唾を飲む。
そして、最後の一文を読み進めた。
『今はそっちの国の修道院にいるようだぞ。この世界での名前はアンというらしく、顔も髪色も聖女だった頃とは全然違う姿をしているらしい』
「『アン』……だと?」
マルスがクシャリと手紙を強く握った。
それはノヴァと一緒に行方不明になったメイドと同じ名前だったのである。
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