第30話 お披露目

 その後、マルスが持ち帰った証拠をもとにノヴァの叔父夫婦は裁判にかけられることになった

 貴族家の当主暗殺。御家の乗っ取り。正当な後継者の迫害。財産の使い込み。無法者との癒着……命がいくつあっても足りないような罪状の数々。

 もちろん、叔父夫婦は死罪。

 おまけに貴族としてではなく、平民として裁かれることに。

 叔母は絞首刑で済まされたが、主犯である叔父は厳しい尋問の後で馬引きの刑……手足をロープで縛られて馬で引かせ、八つ裂きになって処刑された。


 ブリュイ子爵家はヴォルカン侯爵家の預かりとなり、ノヴァが成人後に改めて継承されることになった。

 もしもノヴァが他家に……たとえばヴォルカン侯爵家に嫁いだ場合には、彼女が産んだ子供の誰かが継ぐことになるだろう。

 ブリュイ子爵家を巡る問題は解決して、ノヴァの未来が大きく開かれたのである。


     ○     ○     ○


「それでは、若き二人の前途を祝して……」


「「「「「乾杯!」」」」」


 そして、半年後。

 ノヴァがマルスの婚約者として、正式にお披露目される日がやってきた。

 場所は王都にある離宮。王家が所有している宮殿の一つを借りて、婚約者を発表するパーティーが行われている。

 宮殿のホールには大勢の人々が集っていた。

 グロスレイ王国の名だたる貴族、有力者が勢ぞろいしている。

 煌びやかな装飾が施されたホールにはいくつもの料理が置かれており、高価な酒も振る舞われていた。


「とても綺麗だ。ノヴァ嬢……いや、ノヴァ」


「マルス様もとても似合っていますよ。格好良いです!」


 ホールの中央にいるのはもちろん、本日の主役。

 マルス・ヴォルカンとノヴァ・ブリュイが並んでいる。

 マルスが身に着けているのは黒のタキシード、ノヴァが身に着けているのは赤のドレス……お互いの色を身にまとっている。

 寄り添うように立っている二人は恋人そのもの。

 仲睦まじい彼らの姿を見て、かつて宿敵として殺し合った関係であるとは誰も思うまい。


(だが、それで良いのだ。破滅の未来は俺が胸に秘めていればそれで良い……)


 ノヴァが正式にマルスの婚約者になった。

 十六歳の成人を迎えてから結婚することになる。

 もはや、ノヴァが『滅獄の魔女』になるとは思っていない。


(俺がノヴァを幸せにするのだ。そうすれば、二度と魔女は現れないはず……)


「マルスよ、久しぶりじゃな」


「これは……国王陛下!」


 声をかけてきた老人にマルスが慌てて跪こうとした。

 しかし、その人物がマルスを手で制して話を続ける。


「よいよい、めでたい席じゃからな。あまり堅苦しい態度を取ってくれるな」


「ハッ……」


「若者の門出というのはいつ見ても微笑ましいわい。ましてや、幼い頃から知るそなたとなればなおさらじゃな」


 好々爺として笑って髭を撫でているのは、この国の頂点に君臨している人物。

 この国の国王であるハワード・グロスレイであった。

 本日はノヴァのお披露目のために離宮を貸してくれて、こうして祝辞を述べるために顔を出してくれたのである。


「幼い頃から武術一辺倒であったそなたが女性を見初めたと聞いて驚いたぞ。彼女のことを絶対に守ってやりなさい」


「もちろんです。国王陛下」


(陛下……お元気そうだな。あの時とは大違いだ)


 マルスがしみじみと思いながら、頭を下げる。


 未来の世界。国王は『滅獄の魔女』に率いられた魔物によって殺された。

 当時の国王は廃人のようだった。魔女との戦いで多くの臣下を失い、後継者にするつもりだった息子を亡くしたことで心が折れてしまったのだ。

 大臣らに言われるがままに王都を脱出し、逃亡中に魔物に襲われて喰い殺されてしまった。


(壮健な陛下を見て、改めてあの悲劇を繰り返してはいけないという意思が固まった。俺はノヴァを魔女にはしない。絶対に守ってみせる……!)


「君がノヴァ嬢か。初めましてじゃな」


「は、はい。お会いすることができて光栄です……!」


 国王に声をかけられ、ノヴァが緊張した様子で挨拶をした。

 国王はそんな初々しい少女に相貌を緩めて、穏やかに声をかける。


「マルスは見ての通り、堅物で冗談の一つも言えぬ男だ。しかし……守ると決めたものは絶対に守り抜く、父親譲りの誠実さを持っている。必ず、君のことを大切にしてくれるじゃろう」


「はい。マルス様はとても優しくて誠実です。マルス様の妻にふさわしくなれるよう、精一杯に努力させていただきます」


「ウム、結構」


 国王が満足そうに頷いた。

 ノヴァの隣にいるマルスは、彼女の決意表明に叫び出したくなるほど感動する。


(ノヴァ嬢……そんなに俺のことを。ウググググ、世界中に向けて自慢したい。こんなに素晴らしい女性が俺の婚約者なのだと叫びたい……!)


「似合いの二人じゃな。次代のヴォルカン侯爵家も安泰そうで何よりじゃ……グロスレイ王国代二十五代国王ハワード・グロスレイの名において、二人を心から祝福しよう!」


「ありがとうございます……!」


「あ、ありがとうございますっ」


 マルスとノヴァが同時に礼を言う。

 容姿も性格もまるで違う二人であったが、一緒に頭を下げる姿は似合いのカップル。

 微笑ましく、周りの人間も自然と笑顔を誘われてしまう。


「それでは、ワシはこれで失礼する。パーティーの途中で失礼じゃが、隣国から使者が来ており少々忙しくてのう……皆も今夜は存分に楽しむが良いぞ」


「「「「「ハッ!」」」」」


 最後の言葉は会場にいる全員に向けられたもの。

 国王は頭を下げる臣下に見送られて、パーティー会場を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る